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第090〜099話へ
「バレンタイン・デー」
・武藤カズキ&津村斗貴子
「やっぱさ。斗貴子さんってチョコ切る時バルスカ使うの?」
「使わん!! というかのっけから何言ってるんだ」
怒鳴る斗貴子にカズキはキョトリとした。
「え、狩るんでしょ?」
「何をだ!!」
「チョコレート型ホムンクルス」
「そんなおかしなバケモノ居るわけないだろ!!」
カズキはハッとした。白くなり電流を飛ばした。
「そうだった……」
「分かってくれたか」
「斗貴子さんは拘り派! ならまずは原材料から!」
「言っとくがカカオ型も居ないからな」
居そうだけど居ない。斗貴子はジト目で断言した。
・早坂秋水&武藤まひろ。
「カカオ型ホムンクルス……。まさか実在したとは」
倒れ付す敵の前で。
暗褐色の液体滴る愛刀片手に早坂秋水は呟いた。息は荒く汗も多い。総角並の強敵だった。
「秋水せんぱーーい」
向こうからまひろが走ってきた。敵の消滅を確認すると秋水は武装解除した。
「どうした?」
「あのね。もし手が空いてたら探し物手伝って欲しいの」
「分かった。手伝おう。探し物は何だ?」
えーとね。まひろはあどけなく呟いた。
「カカオ豆なんだけど下ごしらえして動けるようにした途端いなくなっちゃって……」
(ま さ か ! !)
先ほど倒した敵の出自を思い早坂秋水は戦慄した。
・中村剛太&早坂桜花
「どうしたの剛太クン。顔の右半分萎れてるのに左はひどく嬉しそう」
「先輩からチョコ貰ったけど……どうせ義理なんだよなぁ。くそう。嬉しいけどくそう」
机に上体横向きで突っ伏す剛太。その感情は込み入っているらしい。歓喜と落胆。両方に見舞われている。
「あら可哀想。そんな剛太クンに私からプレゼント」
「どうせ義理だろ。つーか言っとくけどエンゼル御前型のハートマークチョコとかそんなベタな代物じゃないよな」
氷にヒビの言ったような嫌な音が笑顔の桜花から漏れた。その手は包みを差し出したまま固まっている。
「そ、そもそもバレンタインデーって聖人の命日なのよ? チョコあげる必要なんてないと思うの」
「何必死になってんだよ。ひょっとして図星?」
「ち、違うわよ。これはただの既製品だし……」
「じゃあ問題ないだろ。見せろよ」
桜花の切れ長の瞳が急激に潤んだ。
「ほら早く見せろよ。ヘンなモンじゃねェんだろ。とっとと見せて楽になれよ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「はーやーく。はーやーく」
「だから……その……ちがっ……」
掠れた野次の中、肩をすぼめた早坂桜花はただ双眸に涙を湛え羞恥に震える。
・若宮千里&河合沙織
「貴信せんぱいにチョコあげたらなんかすっごく泣かれた」
「へ、変な調理とかしてないでしょうね。玉ねぎ沢山いれたとか」
んーん。首を振る友人に千里はただホッとした。
「ところでちーちんは剛太先輩にチョコ渡さないの?」
「そ、そんなの。迷惑だろうし……」
「ダメだよ! 高校生活は短いんだし渡せる時に渡さないと!」
「ちょ……。離し……」
強引に手をつかまれ千里は剛太のいる教室へ。
「はーやーく。はーやーく」
「だから……その……ちがっ……」
教室の中にいるのは剛太と桜花の二人のみ。
なにやら見せろ見せろと詰め寄られ桜花は耳たぶまで真赤である。
(ヤバイ現場に)
(出くわした!!)
2人とも青くなってアワアワした。
・防人衛&楯山千歳&根来忍
慣れた様子で防人は受け取った。水色の平べったい箱はいかにも質素で事務的だ。
「ありがとう。ところで千歳。もう1箱持っているようだが……自分用か?」
「いえ。戦士・根来の分よ」
「そりゃいいな。アイツは友達が少ない。貰える相手がいるのはいいコトだ。すぐ渡しに行きなさい」
千歳は頷きヘルメスドライブでワープした。しかし1分と経たぬうちに戻ってきた。
「ブラボー。さすが早いなってまだ箱を持っている。もしかして渡してないのか?」
「いえ。断られたわ。『防人戦士長の手前、悪かろう』って」
「ム? なぜそこで俺が出てくる?」
防人はしばらく考え込んだがやがて戛然と叫んだ。
「そうか! チョコレートには匂いがある! 俺の指揮で動くときそれで敵に察知されるのを恐れたか!」
「なるほど。さすが戦士・根来ね」
根来なりの配慮をよく分かっていない2人だった。
・火渡赤馬&毒島華花
「水素をふんだんに練りこんでみました」
「いいじゃねえか毒島。こいつァ燃えるぜ」
ばすばすと爆ぜる火渡はご満悦だ。
「あとリン化水素などの可燃性毒ガスもあります」
「毒で弱った上に燃やされる、か。ヘッ。不条理だな。ますます気に入った」
そのほか色々なガス配合のチョコレートを火渡めがけぽいぽい投げる毒島(ガスマスク着用)。
通りかかった円山はあきれた。
「なにアレ。実験感覚? 風情も何もないわねえ」
前夜の夜。
「こ、これで火渡様は喜んでくれるでしょうか……?」
錬金戦団の調理室で白い手をチョコでどろどろにしながら夜半まで調理に勤しむ毒島(素顔)が居た。
・パピヨン&ヴィクトリア=パワード
「言っとくけど別にアナタのために作った訳じゃないわよ」
自分用に作ったら余ったのであげる。頬やや赤い穏やかならぬ様子でヴィクトリアは板チョコを差し出した。
「ふーん。チョコねえ。まあ腹の足しぐらいにはなるだろう」
片目を瞑りながらかぶりつくパピヨンをヴィクトリアは童女のようにどきどきと見た。
「そ、その。食事中聞くのもなんだけど…………おいしい?」
「喰うに耐えんほど不味ければさっさと血ごと吐いている。いちいち聞くな」
その晩。
ビシィ!!!
寄宿舎の自室のベッドの上でひとり人生最大級のガッツポーズをするヴィクトリアであった。
・総角主税&小札零
「フ。随分高級そうな物を買ってくれたじゃないか小札。ホワイトデーに破産させる気か」
「3倍返しなどととととても。高いのは、ほ、本命であります故、手抜かりなど……」
包みを開け食べる総角を小札はじっと見つめた。
「なんだなんだ。フ。まさか俺に見惚れているのか?」
「……そそそそうではなく、その」
チョコの包装は大まかにいって3つに分かれていた。
一番外は綺麗なピンクの包み紙。
二番目は1辺5cmほどの立方体。外箱である。
三番目は外箱より一回り意小さなプラスチック製の中箱で透明だった。
チョコが直接入っていたのは中箱だが、緩衝材だろうか、その下に細かく刻まれた藁が敷き詰められている。
総角の頬を嫌な汗が流れた。
「え、何。まさかこれ食いたいの?」
小札は頬を赤くし頷いた。
・鳩尾無銘&鐶光
「いいか。バレンタインデーなどというのは毛唐が勝手に決めたコトなのだ!」
「はぁ……」
少年無銘は決然として吼えた。
「日本に生きる我々が乗せられ浮かれるなどあってはならんのだ!」
「えっ。でも無銘くん……クリスマスになると……浮かれ「うるさい!!」」
怒号。虚ろな目の少女はちょっと悲しくなった。手を差し出す。
「じゃあ今あげたチョコ…………返して……下さい」
無銘の顔に罪悪感が満ちた。あと惜しそうな顔もした。目が露骨に泳いだ。
「い、いや? 我は忍びだし? 踊らされた愚か者を喰うのはむしろやって当然のコトだし?」
(嬉しいけど…………無銘くん面倒くせえ……です)
・栴檀貴信&栴檀香美
デパートに行く。選ぶ。
「ご主人何いい?」
「……任せる!」
お会計。
「お買い上げありがとうございます。お包みしますか」
「よー分からんけど頼むじゃん。おっ垂れ目発見! 喰らえじゃん!(ガコッ ←時速180kmの箱が直撃)」
帰宅後貰いチェンジ。貴信が食べる。
ポリポリポリポリ……。
(……)
(選んでから貰うまでの過程全部知ってるから……
侘 し い ! !)
自分で買ったようなものだし。
・武藤ソウヤ&羸砲ヌヌ行
「フフッ。義理だが一応あげるよ。(ガチ本命! めちゃガチ本命なんだよソウヤ君!! うおお!!)
「あ、ありがとう」
不承不承受け取るソウヤの表情にキュンキュンくるヌヌ行だが表情はあくまでクール。
「まあアレだ。食べ過ぎて鼻血出さないよう気をつけたまえ」
「というか何でチョコくれたんだ?」
「えっ」
思わぬ質問にヌヌ行は固まった。
「バレンタインデーだよソウヤ君。知らないのかい?」
「ああ。だって俺のいた未来世界はムーンフェイスのせいで荒廃していたからな。そういう慣習などちっとも……」
知るヒマがなかったという。
(やっべ。まっしろすぎるよソウヤ君。やっべ)
「ブハア!!」
「!!?」
興奮のあまり鼻血を噴いて仰け反るヌヌ行をソウヤは愕然と見るばかりであった。
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