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【手乗り】武装錬金萌えスレPart41【チャイナ】

秋水、べべんちょーね職人を志す

(斗貴子さんがカズキと出会うのを禁じられたというネタに便乗)



六日目
「ご旅行ですか?」
白髪交じりの車掌が切符を切りながら聞いた。
「まぁそんな所だ」
銀成から電車を乗り継ぐコト8時間。斗貴子はとある片田舎にいた。
無人駅、というのだろう。
ホームと簡単な待合室しかない寂れた風景は果てしなく無人で、感傷を誘う。
「そうですか。でも今は何もないですよ。
10月くらいだと紅葉が綺麗ですけど、そうですね…
珍しいモノと言ったら、名産品のべべんちょーね位しか」
「いや、旅行ではあるが観光しにきたワケじゃない」
車掌は浅黒い顔を少し怪訝にしたが、そのまま電車に乗り、電車はやがて走り出し見えなくなった。
べべんちょーねが何か気にはなったが、斗貴子はそのまま歩を進めた。

「そうか。キミは武藤と出会うコトを禁じられたのか」
6時間後。斗貴子は早坂秋水の前に居た。
ここは山奥に建てられた彼の師匠の小屋である。
「そうだ。まぁ明らかに不自然な流れであって、
策謀好きの 誰 か が後押ししているような気もするが
まぁ、誰 か の生暖かくて真っ黒な内臓を引きずり出して剛太に詰め込んでやっても
それで会えなかった時間や剛太の命が戻るワケでもなくカズキー!」
「落ち着け。バルキリースカートが発動してるぞ。
で、俺にどうしろと? 誰 か が誰か、全く知らないから俺には説得のしようもない」
腕組みをした秋水が言うと、斗貴子はバルスカを引っ込め身を乗り出した。
「キミはこうして山に一人寂しく引きこもっているから、寂しさを断つ方法を知っているはずだ。
何をしている? 奇声を発しながら山野を駆け巡っているか? 
岩石を睨みながら一晩中唸っているか? 下界におりてサツマイモを盗んでいるか? 悪人め!」
「キミはアレか? 俺の目を再び濁らせに来たのか?」
澄んだ瞳のまま秋水が言う。修行は功を奏して、彼を自身に勝たせたようだ。
「濁ってようが爆発しようがうんこ色の絵の具がにゅるにゅる飛び出ようが、キミの目なんてどうでもいい」
「そうか。核鉄があったら多分スゴイ武装錬金が炸裂しただろうが、そうか。
人恋しさを紛らわす方法だが、それは慣れだ。慣れればすぐに楽になれるぞ。すぐ、楽に」
秋水がお茶を差し出した。彼は桜花でないので安全だ。
湯気に当たったハエたちが面白いように墜落していく。害虫を駆除できる魔法のお茶だ。
「慣れないから困っているんだ。あと、窓からホムが覗いているのでお茶を投げる!!」
お茶は命中、ホムンクルスは黒紫のあぶくになって消滅した。
「いや、俺も最初はそう思っていたが、これが一番いいんだ。
ここに来た当時は俺も結構荒れていたが、最近ではすっかり目も心もキレイになっている。
ある朝、何か大切なコトを忘れたような感じもしたが、しかし今は違う」
小屋の入り口の方で声がした。
「こんにちはー。秋水さん居ます」「おお、おるわい。また渋茶を作ってきたのか。アツアツじゃのう」
片や快活そうな少女の声、片やしわがれた老人の声。
「誰だ?」
「美弥さんと師匠だ! キミのヨタ話など知るか!」

どたどたと秋水は玄関に向かい、しばらく話をすると、幸せそうな顔で戻ってきた。
「何の話をしていた?」
「ケッコン」
「また懲りずにごっこ遊びか気色悪い美形野郎め!」
「違う。今度は正真正銘のケッコンさ。式も日取りも決まってて、明日ウェディングドレスを見に行く」
斗貴子は流石に色を失った。
「美弥さんはこんな俺でも必要としてくれた。だから俺は彼女を守りたい。今度こそ、必ず」
「いやオマエ、そう言うのって桜花に許可を取らなきゃマズイだろ?」
「ウググゥ〜頭が痛い、はい忘れ永遠に忘れた。桜花って誰だ? 俺は生まれた時から一人だったさ……
で、式をあげたら俺は美弥さんの家業をついで、べべんちょーね職人になりたい」
「べべんちょーねって何だ?」
「べべんちょーねはべべんちょーねさ。歌だって作ったぞ俺は。
♪べべんちょーねは空を飛びべべんちょーねは岩砕く! いい歌だろ?」
津村斗貴子は山小屋を後にした。何の参考にもなりゃしないが、秋水、お幸せに。



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