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【遊ぶのでしたら】武装錬金萌えスレ36【お早めに】より

金城とちーちん

(意外に反響があった作品。猫ヴィクターがお気に入り)



校舎裏でケンカをしているのを聞きつけ、注意をしにいくちーちん。
だが駆けつけた頃には、倒れ付す犬飼と蛙井と秋水。金城は背中に人生をのポーズ。
惨状に一瞬怯むも、懸命に注意する。
「あなた何やってるの! 先生呼びますよ!」
心外だという風にため息をつく金城。顔は擦り傷やらXやらWの切り傷でいっぱいだ。
「仕掛けてきたのはコイツらだ。オレが説教される筋合いはねェ!」
「だからってこんな…!」
「にゃあー」
詰め寄るちーちんの足元に一匹の子猫。赤銅色で耳は蛍火の変わった子猫。
「バカかてめェは! 隠れてろって…」
え?という目のちーちんを認めると、
「…チッ。とにかく面倒事はゴメンだ! オレは帰るッ!」
金城は立ち去った。子猫は「ふぇいたるあとらくしょーん…」と寂しそうな鳴き声。
訳が分からないという顔でちーちんが辺りを見回すと、
「う゛ぃくたー」と汚い字で書かれた段ボール箱と、ミカンの皮を手にしている犬飼と蛙井と秋水があった。
猫はミカンが苦手だから、そういうイジメをしていたのかも知れない。
「だからこの子を守ってたの? でもケンカなんて…」
複雑な表情で呟く横で、ヴィクターは毛づくろいを始めた。

翌日。教室。
「あー知ってる知ってる。そいつ2−Aの金城でしょー」
とても1年生に見えない花房(事情通)が答える。
風紀委員という立場上、爪にマニキュア塗ってるのを注意したいがガマンだ。
「なんでも1年生の頃は相方とつるんで、色々悪さしたらしいわよ。
隣町の毒シーマ学院に殴り込んだり、家庭教師した教え子を財産目当てで誘惑したり。
極悪よ。だから近づかない方が身の為じゃないかしら。あ、電話。もしもし次郎ク…攻爵クン。元気ー?」
花房はこの日を境にいなくなるが、本筋とは関係ない。
「悪い人には見えなかったけど…なにやってるんだろ私」
窓から外を見ながら、ちーちんはため息をついた。10月の空はどこまでも青い。

放課後、校舎裏。
「ヒャッホウ! 今日も元気に…って、な、なんでてめェがいる!」
(なんでだろう…)
ちーちんにもよく分からない。ただ、怒っている顔の傷はほとんど治っていて、なんかホッとした。
「にゃ! にゃあー! れんきんのせんしはころすー!」
ヴィクターは嬉しそうにノドを鳴らしながら、金城に突進した。
そしてヴィクターは脛の周りをぐるぐる回り、「キミはだれだキミはだれだ」と一生懸命体を擦りつける。
金城は気まずそうだ。
「あなた、ひょっとしてここで猫飼ってるでしょ?」
それが昨日のケンカのコトより気にかかっていたのかと、ちーちんは自分でも驚いた。
「ヒャッ!? かかか飼ってなんかいねぇぞ!」
「じゃあ、その手にしてるキャットフードは何?」
言われてようやく気付いたのか、金城は慌てて隠した。
その仕草があまりに子供ぽかったので、ちーちんは少し笑った。
「笑うんじゃねェ!」

「ごめんなさい。でもやっぱり飼ってるんでしょ?」
金城は無言でポケットに手を突っ込んだ。ちーちんはヒヤリとした。だが杞憂。
「悪いか。だがな、そういう校則はねェはずだ」
生徒手帳を取り出して、パラパラとめくる姿はどうも話とはかけ離れている。
校則が書かれた部分だけが擦り切れている。また笑みがこぼれた。
きっと、猫を飼うことの是非について彼なりに調べたのだろう。
「けど、猫はともかくケンカはダメってそこに書いてあるでしょ」
金城の目が止まった。丁度そこに『知ってるぞ。喧嘩をしたら停学だ』って校則が書かれていた。
「…だがな。昨日のケンカは連中が悪い! 連中ときたらヴィクターにミカン汁かけやがった!」
怒りだした金城は、ますます滑稽に見える。
「見た目によらず猫好きなんだ」
からかうように言うと、金城はますます怒った。
「俺は猫なんざ嫌いだ! 猫なんざ…!」
急に弱まった威勢に、ちーちんが少したじろいだ時だった。
野太い声が校舎裏に響いた。
「あ、いやしたぜ! アイツでさぁ!(by秋水)」

ちーちんにはその主が、昨日金城にやられた三人だと分かった。
「やぁ金城クン。昨日はどうも」
「またテメェらか。あれだけボコられてまだ懲りねェのか?」
「昨日は不覚を取ったが今日は違う! 番長、我々の仇をぐはぁ!」
犬飼と蛙井と秋水は吹き飛ばされ、動かなくなった。
「やかましい。御託とか前振りはどうでもいいからブチ撒けさせろ! 桜花の前の予行練習だ!」
「女の…コ…?」
ちーちんは驚いた。顔に傷痕こそあれど、三人を吹き飛ばしたのは女のコだ
「! テメェのその傷は! 忘れもしねェ、あの時陣内をズタズタにした!」
「ズタズタ…? ああそうか、確か私がおにぎりの具のコトでカズキとケンカしてブルー入ってたあの晩──」

楽しそうに猫と戯れている陣内と金城が目に入ったので、むしゃくしゃしてズタズタにした。

「思い出したか! オレはどうにか紙一重で致命傷は避けた! だがアイツは! 陣内のバカヤロウは!」

『この子だけはダメです! やるなら私だけを! 痛い、痛い、痛い、痛そう! でも──』
『ほう、不良のクセに猫を守るか! カズキは私に優しい言葉一つかけないというのになァ!』

金城は寂しそうな目でヴィクターを見た。ヴィクターも「いかりだもういかりしかない」としょんぼりしている。
「コイツをかばったせいでまだ意識不明だ! オレは入院費を稼ぐ為に不良をやめてバイトしまくる羽目になった!」
だから猫が嫌いなのね…ちーちんは胸が痛んだ。置いてきぼりなせいもある。
「まぁそんな過去はどうでもいい! 未来の為にブチ撒けさせろ!」
「ケンカは駄目!」
「るせぇ陣内の仇!」

金城は一方的にやられた。しかしカズキが来たら場は何とか収まった。

「だからケンカは駄目って言ったでしょ。…なんかカッコ悪い」
ペタペタと膏薬を塗ると、金城は痛ェ痛ェと顔をしかめた。
「うるせぇ。いつか必ず陣内の仇を討って…痛ェ!」
ペシィ!と勢いよく鼻柱にバンソウコウを貼ると、金城は黙った。

その顔を見ると、しばらく校舎裏に通おうと思ってしまうちーちんだった。



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