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【カズキくんの】武装錬金萌えスレpart38【恋人】より

震洋とバイク

(途中オチに困ったのでムリに落とした。まさか死ぬとは思わなかった)



震洋はバイクを持っている。
と言っても、バイクがどこのメーカーのものでどういった種類のものかは知らない。
ただ、たまたま通りかかったバイク屋のショーウィンドウの片隅でホコリをかぶっていたそのバイクを
なんとなく気に入って、運良く当てたロトの賞金があったので買った。
だが、所詮は安物であり、売れ残りであり、乗るたびに「グルルングルルン」と
まるで猫がノドを鳴らしているような雑音を立てて、震洋を何度も毒づかせた。
生徒会書記ではあるが、桜花秋水と同じく生徒の信望の為にその職についていた彼は
校則などお構い無しに、しかし免許だけはこっそり取って、雑音に顔をしかめながらずっとバイク通学をしていた。
ある時、彼に転機が訪れた。
カーニバルの失敗である。
学校生活は、放送室での顛末にしばらく後ろ指をさされる程度で済みはしたが、私生活はそうではない。
週に三度、カウンセリウングを兼ねた事情聴取の為に、聖サンジェルマン病院への出向を余儀なくされはした。
だが、錬金戦団はLXEのように生活の援助はしない。
ロトの賞金も貯金もすぐ底をついた。
震洋は徒歩で学校へ行くようになった。バイクのガソリンを買う金すら既にない。
そうなると、足は疲れて「グルルングルルン」という雑音すら懐かしい。
雑音ではあったが、しかしバイクはちゃんと走っていた。
雨の日も風の日も、遠くへ行っても近くへ行っても、太と細を乗せても、ちゃんと走っていた。
まるで、ホコリくさい店の片隅から空の下へと出してくれた震洋に感謝を示すように。
家の前に停めてあるバイクを震洋は眺めた。家の中には誰もいない。家の前にバイクがいるだけだ。
ほどなくして震洋は新聞配達を始めた。
朝の風は冷たい。バイクは雑音も立てず黙々と走る。
木枯らし吹き荒れる飄々と、一人行く一人行く鈴木震洋。
新聞は重い。停めたバイクは何度も転ぶ。毒づきながら震洋は新聞を配る。
かつて死ねばいいと思っていた連中に配る。
配り続けて、バイクが転ばなくなった頃、給料が出た。
震洋は、ガソリンを買った。
買って、バイクに入れて、走ってみた。
「グルルングルルン」
やっぱり雑音はそのままで、震洋は、泣いた。
ワケもなく涙があふれて止まらない。
そして視界が霞んで、飛び出してきた猫に気付かなかった。
「危ない!」
その猫を助けた秋水がバイクに跳ねられた。
「グルルングルルン」
バイクはまた雑音を立てた。震洋は号泣した。
秋水、死亡。



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