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【ヘソ出し】武装錬金萌えスレpart37【お姉さん】より

ちーちん、徹夜する

(やや司馬遼太郎風味。最初の1文の最初は意図せず発生した下ネタ)



ちーちんこと若宮千里が二日半に及ぶ徹夜の記録を打ち樹てたのは
入学して最初に迎えたゴールデンウィークだった。
「何の趣向もないから何か記録に挑戦しよう!」
言い出したのはたれだったか。分からないがともかくも決まり
千里は徹夜の、沙織は長寝の、まひろは寝たり起きたりの記録を伸ばすコトにした。
「寝たり起きたりの記録? 要するに普通の暮らしではないか」
眉をひそめたのは津村斗貴子である。
彼女はこのマンガにおける絶滅危惧種にして一人者たるツッコミキャラゆえに、ボケに対する嗅覚は凄まじい。
が、それは一時であった。何故ならその後、武藤カズキに
「じゃあオレ達は特訓の記録を伸ばそうよ!」
と言われたからだ。「オレ達」とは無論ブラボーも含めた三人を指す。
が、それで満足する津村斗貴子ではない。
カズキが「伸ばそうよ」といい終わる瞬間にはすでにキャプテンブラボーをブチ撒け、
「オレ達」を二人に減らしていた。
話が逸れた。
虫歯だらけの豚どのいわく「比較的優等生」の彼女は、ヒマさえあれば予習復習や検定の勉強に費やしている。
費やしすぎてそのまま朝まで起きているとコトも少なくはない。
まだメガネをかけていない、2chでいう所の「ょぅι゛ょ」である頃からそうであり
そうであるがゆえに徹夜が特技になり、変わりにメガネを要するほどに視力が下がった。
が、この「比較的優等生」はそうなってもいまだ徹夜をやめない。
やめないどころか、ゴールデンウィークを利用して徹夜の記録を伸ばそうとしている。

六舛孝ニという男がいる。
武藤カズキには「三バカ」と呼ばれる三人の親友があった。
岡倉英之、大浜真史、そして六舛孝ニである。
エロス、スク水といった素晴…下卑た趣味を持つ他の二人と違い、彼だけは下品さがない。
というより「Dislike 特になし(有っても教えない)」といった秘匿主義の彼だけに
ウィダーインゼリーとグレーと数学以外のFavoriteを言わなかったのかも知れないが。
その六舛孝ニがある時、
「ちーちゃんは頑張りやさんだね」
簿記と英語と秘書とボイラー技師の検定の勉強をしている千里を見て、言った。
平素無表情で、おおよそ笑いといったモノに無縁な六舛が微笑までたたえたというから、よほど感心したのだろう。
笑うと、凛々しい中にどこか幼さが覗いて清々しい。
千里は驚いた。
六舛が笑ったコトにではない。
あくまで予習復習や検定の勉強は彼女にとり、メガネをかけているのと同じ位当たり前のコトであり
内心ではスワヒリ語やオンドゥル語の学習もしたかったが、学業との兼ね合いで捨てていた程で
そういう意味では彼女にとり「頑張っている」状態ではない。
が、六舛に言わせれば、頑張りやさんらしい。
あるいは、成績は優秀であれこそ素行が変人であるがゆえに「優等生」ではない六舛にとっては
「比較的優等生」な千里の姿勢が羨ましかったのかも知れない。
さて千里。
「頑張りやさんなのかな……」
褒められて悪い気はしない。意外に幼い六舛の笑顔を思い出すと
胸の奥がきゅっと締まる思いがして、白い頬が紅くなり、慌ててしまう。

「六舛先輩ってあまり笑わないよねー。そこがクールでカッコいいんだけど」
「見たコトあるよ笑った所! 雨の日に子猫さん拾って頭を撫でて笑ってたよ!」
そんな沙織とまひろのやり取りを聞いた後、千里は勇気を振り絞って六舛に聞いた。
「せ、先輩は猫って好きですか」
「好きかな。特に小さいのは可愛い。特に子猫というのは──」
いつも通り淡々と豆知識を並べる六舛だが、少し相好が崩れている。ように千里には見えた。
(同じなんだ子猫と…)
そもそも、秘匿主義の六舛が好きなものを答えるというのも特別な意味に思えた。
千里は部屋に戻ると、珍しく予習復習も勉強もしないまま朝がくるまで頬を緩ませていた。
翌日もそうであり、その熱は徹夜の記録が48時間31分を越えて眠りに落ちるまで冷めなかった。

そのせいである。
この「比較的優等生」の千里が立てた学習の計画に致命的な狂いが生じた。
(もっともそう思うのは当人だけであり、傍目から見れば十二分な余裕があった)
「何の趣向もないから何か記録に挑戦しよう!」
と言われたのは丁度その頃であり、千里は徹夜の記録を伸ばしつつ計画の遅れを取り戻すコトにしたのだ。
話の種にもなる。
六舛が自分に感心して欲しいとは思わないが、心配してくれたら嬉しいな…とまた頬を染めた。

徹夜12時間を越える頃には、すでに計画の遅れは取り戻されていた。
しまった、と思ったのはまひろである。
寝たり起きたりの生活では普段どおりであって何の記録にもならない。
というコトを、このライブド…楽天を体現した少女は深刻な表情で相談しにきた。
「どうしようちーちん」
じゃあ一緒に徹夜する?というと、まひろは「うん」と無垢な表情で頷いた。
徹夜14時間を越える頃には、まひろはすーすーと寝息を千里の部屋で立てていた。
千里はそんなまひろが好きなので、布団を掛けてあげた。
徹夜36時間を越える頃には、いよいよ頭がフラフラしてきた。
意味もなくヒンズースクワットをしてみたり、長寝をしている沙織にファンタのグレープを飲ませてあげた。
沙織はけほけほとむせた。むせながらもなおも眠っていた。これも一種の才能であろう。
徹夜48時間を迎える頃には、千里はすごく楽しくなってきた。
爆笑しながら、花瓶を外に投げた。ちょうど外を歩いていた秋水に当たって、秋水はしばらく死んだ。
まひろは流石に慌てた。様子が尋常ではない。だが千里は
「まだまだ大丈夫ガッハッハッハ! 心配は杞憂よ! 杞憂の語源はキユよ!」
と心配が杞憂であるコトと、杞憂の語源をまひろに教えてあげた。
もはや論理は破綻者のそれである。
徹夜59時間を越える頃には、世界の全てが憎くなってきた。
「武藤見てくれキレイな蝶を取ってきたぞ!」
「ちーちんに逆らうヤツは殺すファイアー! ヘヘヘ火加減はどうよ!?」
と部屋に飛び込んできたパピヨンを火炎瓶で撃退したのはこの時である。
なぜ千里が武藤カズキの部屋に居たのかは諸説様々あるが、いまだに謎である。
が、確かなのはその後すぐに寝入ってしまい、特訓を終えて部屋に入ってきた
武藤カズキと津村斗貴子が眠る千里を見るなり、揉めに揉めたコトぐらいである。

その後、六舛に肌に悪いから徹夜はやめた方がいいと言われた千里は
しばらく徹夜をやめるコトにした。終わり。



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