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第5話 「行者あらわる」



霧がまだけぶっている森の中。
「あー…」
劉邦の口から気の抜けた声があがった。
「あー…」
韓信も同じくだ。
目の前では張良が呂后を解体している。
「あー…」
また所在なげな声を上げて劉邦が右に首を曲げると
「あー…」
韓信も応答して劉邦の目をみた。
んで、蕭何が呂后の腹を裂いた。
「やっっぱり、ウソだったんじゃないですか」
かーなしーみーのー むこうへぇとー たどりーつけぇーるなーらーぁ
「中に誰もいませんよ」
斬新な視点でお楽しみください。

「終わったな」
「終わりましたね」
「長かった」
「ええ、長かったです」
「竜神伝説は面白いの」
「はい、竜神伝説は面白いですね」
「うむ。それはそうと」
劉邦はニコリと笑って
「このたわけがぁあああああ! 結局鉄人最終巻発売後まで投下が伸びとるではないかああ
あ! 何か月開いた? ええ!? 何か月投下が開いた!!!」
韓信の頬にビンタをかました!!
「だいたいお前、前回鉄人28号の最終巻発売日が7月とかいってたが!! 実際は9月じ
ゃろうが! 武装錬金DVD最終巻のちょっと後! 6月時点でVL2号もギャロンも出て込ん
だから、おかしいと思って調べたらこれじゃ! またかよ! この前は火まんじ間違えたし!」
「ははは。だから10月からはちょびっと支出減りますね。良かった良かった」
「書いてるやつの懐具合などはどうでもいいわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
劉邦は狂ったように韓信をたたく! 韓信は甘んじて受ける!
別に連載が滞ったのは精神状態うんぬんではなく、ただ執筆すべききっかけが掴めなかった
だけだ!
断じてREDのGRのカオスっぷりを見て「あれあんのに執筆するのどうするよやめとくのがいい
のです←結論」と意気消沈したワケではない。いや、ちょっとはありますごめんなさい。
「るせぇ! ラノベの後書きっぽい内輪ネタばっか振ってんじゃねぇぞおおおお!!」
不意の声とともに、劉邦の足もとが爆ぜた!
どうやらレーザー光線らしい。少なくても張良はそう分析した。
「だ、誰じゃ!」
劉邦が蒼白になったのもむべなるかな! すでに最大の宿敵である呂后は苦戦の末に葬っ
た! しかしそれとほぼ入れ替わりに恐るべき能力者が襲来している!
「てめーら、この時代に呂后殺ってんじゃねーぞ! もっと後の時代に殺されるんだろーが!」
見れば白い影が光線銃を持ってわりと遠い場所にいる!
「日食にビビり倒して犬にかまれてくだらん痣を作って、読者に見たくもない胸チラ見せてよ、
んで死ぬのが正しい呂后の在り方なんだよおおお!! だから今は助けるのが筋だ!!」
『馬鹿め! それを決めるのは我らだ!』
まったく張良は抜け目ない。銀線を手にもう謎の男の背後にいる。
後は首なり頭なりをカッ切るつもりなのだろう。
「ヘッ! そういやニコ動によぉ〜!」
謎の男は張良に気付いていないらしい。腰の辺りで銃を構えたまま、怒声を劉邦たちに
浴びせ始めた。
「白昼の残月(鉄人28号の映画版です)あがってるじゃあねーか! おじさんアレにゃあビビ
ったぜ。映画とかどうやって上げてんだろうなあ。映画館で撮影してんのか? ま、どーせD
VD借りてみるから関係ねーが」
『なっ……』
律儀にも虫文字で張良が驚愕したその理由を、韓信は一拍遅れて理解した。」
銀線は男の前でくにゃりと曲線を描いたまま、空中で静止している。
張良が意図的に止めていないのは、彼の握りこぶしが紅潮するほどに強く握られ、果ては内
側より赤い液体が漏れている事からも明らかだ。
「握ッタ銀線ガ拳ニ食イ込ンデイルセイダト思ワレマス」
バベルの塔のコンピュータっぽく分析する蕭何はさておき、それだけ張良は力を込めている。
にもかかわらず彼はなんら男に傷をつけられずにいる。
「よーぅ。張良さんよー。司馬遼版じゃいやに病弱な張良さんよぉ〜」
謎の男は振り返ると、ニヤリと笑みをくれた。その顔立ちや髪形にデジャビュを覚えた張良で
はあるが、横山作品の主人公というのは大抵この系統の顔立ちなので気のせいだ。
大体にして登場人物の容姿がバラエティに富んでいるのはマーズか影丸か鉄人ぐらいで、
後はもう似たり寄ったりなのである。学校の先生なんて特にそうなのである。時代劇に出てく
る親分の名前は大抵「権左」だし。
「いっとくがあんたの攻撃は通じないぜ。なぜならおじさんは……おっとこれ以上は内緒だ」
「敵に能力をばらす馬鹿もいない、でしょう?」
韓信はぼーっとした顔のまま、ポツリとつぶやいた。声はあまりに小さく、男はそれが自分に
投げかけられた声だと気づくまでやや時間を要した。
「その通りだ」
「でも分かっちゃいました。バリアー張ってますよね? 原理はよくわかりませんけど」
男はちょっと飛び上がりそうになった。で、声をノド元の辺りで飲み込み、落ち着くために自分の
目的を反芻する。
彼の名前はジュン。通称を時の行者といい、戦国時代から江戸時代の日本へタイムスリップ
を繰り返したコトで有名である。
そんな彼はなぜか今回古代中国にいる。で、探ってみたら劉邦らが呂后を殺そうとしている。
基本的に歴史に不干渉な行者としてはそれは見逃せない。
ちなみに年表では

前204 本SSの舞台
前180 呂后死去

となっており、ココで呂后を殺られちまうと、歴史を変えたくない行者にゃ分が悪い。
(しかしおじさんのバリアーを見抜くとはねー 参った参った! さすがは大元帥! まぁしかし
攻撃が通じないのは確かだぜ。なら、一方的に攻め……)
「張良どの、御子息を召喚ください。それで十分やぶれます」
『いいですとも!!』
「……なぜにゴルベーザ?
劉邦のぼやきはさておいて、張良が手を上げると地面が砂柱を上げ、大人より大きな黒光り
が9体、空高く舞い上がった!
「まず一番手は影となり!」
「姿はあれど音は無し!」
「静かなれども振り向かば!」
「十重二十重に舞い上がる!」
「菊の花びら!」
「浮世の湖面に映り散る!」
「望みとあらば目にもの見せよう!」
「我ら命の大あばれ!」
「九紋の龍が天を貫く!」
単行本ではページの順番が変わっていたあの口上だ。
それが終わると影どもは重苦しくドサドサ着地した。
薄暗い森の中。劉邦がそれらの正体を理解するまでしばらくかかった。
だが……
「アリ…?」
フォルムはそれだが、しかしおかしい。
「アリですね。あ、漢王は困ると情けない顔にございまする」
「わしの顔はともかくでかすぎないか? 本当にあんな生き物がアリなのか?」
「”蟻”と”有り”を掛けているのですね?」
「殺すぞ。8年後ぐらいに殺すぞ。で、あのア…黒いのは張良の何なのじゃ?」
触覚をもさもさ動かすアリたちは、ピザ丸出しの呂后を乗せても走れそうな位の大きさだ。
もちろん鉄人28号に出てきた巨大アリが元ネタであるコトはいうまでもない。
案外鉄人はこういうヘンなモンスターと戦ったりする。食人植物とか。いや、こっちはサンダー
大王だけど。ちなみにサンダー大王はマーズや鉄人28号のひな型となった作品ではあるが
いかんせん知名度が低すぎる。でもあの古代ローマみたいな甲冑姿は格好良い。
話はそれたが、アリが規格外すぎるんで劉邦は困った。
困りながら、眉毛をシャキンと引き締めた。情けない顔といわれたのを気にしているのだろう。
『韓信どのがおっしゃってるではありませんか。これぞ我が息子たち! 名を張辟彊(ちょうへ
ききょう)』
「月が綺麗じゃのう……」
うっそうと繁る木の葉たちを見上げ、劉邦は呟いた。狂った現実から目を逸らしたい時だってあるさ。
『まだ3かげつだが強いぞ。さぁ行け!』
張辟彊たちはかさこそ走り、行者に飛びかかった。
「フン、馬鹿め! こちらに光線銃があるのを忘れたか!!」
ああ! 行者の言葉通り光が瞬くたびにあたら幼い命は爆砕されて終わった。
『はーはっはっは!! こりゃ僕の予想外!! まいったなあ!!』
「これ → 『』 が同じだからといって、首が回転して猫娘になりそうなテンションはやめろ!」
「なったらいいですよね。呂后ぐらいしか女のコいませんし」
あれを女のコと定義するのは、ゆめりあ先生を横山キャラとしてカウントするぐらい無理が
あるだろう。ちなみにゆめりあ先生はふたば発祥のキャラらしいです。
「クソが! どうしてそういうマニアックな方向でネタ振るんだよボケ作者ああああああ!!」
馬鹿め。これが俺だ。参ったか。
「ならてめーの好きな横山キャラを皆殺しにしてやらあああああああ!!」
行者は光線銃を乱射しまくった。
飛びかかろうとしていた張良がまず撃たれて爆砕した。
続いて飛びかかった蕭何も同じ運命。
彼らの肉片やら汁が行者のバリアーに降り積もった。
んで韓信が劉邦をかばったが、レーザーが貫通して二人とも臓物をブチ撒けた。
おお、なんというコトを。確かに山風作品じゃ鉄砲最強だが。
「これで俺最強ピャポピャポ」
勇む行者であったが、叫んだせいか息が切れる。
そもバリアーは攻撃を遮断する代わりに空気も遮断するのだ。
だから長時間使用するとかえって身がやばい。まぁ、それは後付け設定なワケで、島原の
乱にでくわした時は一時間以上水の中で耐えしのいでいたワケだが。
ぜぇぜぇと息つきながら行者は勝利者特有のギラついた笑みを浮かべて
「まぁいい、このままじゃ呂后も助けられない。バリアー解除だ!!」
軽はずみな行動をしばらく後悔する羽目になった。
バリアーの上に付着していた血、これをただの血だと思って受けたのが悪かった。
肩口やら頭についたそれらはぶしゅう〜〜〜〜〜〜と白煙上げて体組織を溶かし始めたで
はないか。
「うっぎゃあああああああああ───────────────────────!!」
苦痛に絶叫しつつ地面を転げまわる行者を冷たく見下ろす4つの影があった。
言わずと知れた劉邦と3つのしもべだ。
爆砕したはずの彼らがなぜ生きているかというと。
『馬鹿め。貴様はすでに韓信殿の術中に陥っていたのだ。我々だと思って殺したのは我が
息子・張辟彊。血だと思っていたのは……何物をも溶かす蟻酸だ』
「彼らの体内を流れている蟻酸は魔界のマグマと同じ成分でね…! 温度は超高熱! そ
して強い酸をも含んでいる!」
「今度は死神かい……」
「まぁ、組曲作った後なので使いたいのでしょう。で、私は予め例の霧のぶそ……いや、魔界
衆の残した宝貝を使っておきましたので」
「やった! バベルの籠城編がOVA化されたよママン!!」
何事か喚きながら光線銃をめたらやったら撃ちまくる行者を、劉邦たちは呆れたように見た。
『──この通り、お前は既に幻覚と現実の区別もつかない精神地獄(ワンダーランド)に陥っ
ている。もはやこの声もキチンと届いているかどうか』
「ともかく放っておきましょう。いまは呂后にトドメを刺すのが急務」
「いや、解体してスクランの最終回みたいな目に遭わしたらたいていの奴は死ぬと思うが」
笑いながら振り返った劉邦(ちょっと主人公として問題があるような気もするが、元来こういう
奴です。逃走中に子供を馬車から振り落として逃げる速度を早くしようとしたり、功臣を次々
粛清したり)の表情が硬直した。

解体したはずの呂后の死骸!
それが皮一枚だけになってベロンと地面に横たわっている!
まるで昆虫が脱皮して抜け殻だけ遺すように!

いったい呂后はどこに消えたのか!?

──次回を待て!


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