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第30話 【千】せんざいいちぐう



根来が傘を投げた頃である。 
(まさか助け舟を出してくれるとは! アナタは少なくても部長よりは信頼できる上司かも! 
この戦いに勝てたら、傘下に加わってみるのも良さそう。でもその前に、火炎鼓を買うぞ) 
仄かな月光に煌く粒子の中で、久世家は汗をぬぐった。 
肌には血色が戻り、弱々しいながらに笑いが浮かんでいる。 
(霧に見えるけど、細かい金属だなコレ。千歳さんの持ってたのはレーダーだから、電波が 
乱されて俺を見失っている訳だ。……ん? じゃあ) 
手近な木に、「やっ」と声を向けてみる。 
彼が根来に肝臓をブチ撒けた時のように、入れ替えは任意でもできる。 
合図については、コウモリの操作と同じく。声に含まれる超音波で行う。 
のだが、久世屋の場所は変わらない。 
(やっぱり。粒子に当たって分散してる。なら、コウモリは操れない。ま、助かっただけよしと 
しよう。自動で入れ替わる特性に影響はないし) 
少し考える時間を得た久世屋は、考えた。 
自らの能力。根来たちの能力。両方ともを考えて考えて、考えつくした。 
(考えてみれば、一つの使い方に拘泥するのって惰性だよな。もっとこう、意表をつける攻撃 
を……なおかつ、残りの弾を温存できて、見栄えのする攻撃方法を……そうだ!) 
やがて必死の思いは、もとより豊かな思考力と結合し、有効打を抽出した。 
(いいコト思いついた。でもこれを活かす為には、トイズフェスティバルの数を把握しなきゃい 
けない。ずいぶん減ったけど……ひいふう…………14個か。そ、あくまで『仕掛けた』奴は、 
14個しか残っていない。…………フフ……) 
意味ありげに頬を綻ばせると、 大きく息を吸い込み独り言。喉枯れした声で独り言。 
「頃合……かな。多分」 
彼の足元から、シークレットレイルが飛び出した。 
「ほーらドンピシャのタイミング」 
また入れ替わりのループが開始。 
(いっつも思ってるけどさ、仕事熱心な男と俺の相性って激悪だよなぁ。されたら困るって時 
に色々してくる。もうちょい力を抜くべきだよ本当。人生長いんだから、目の前の仕事にいち 
いち命を燃やしちゃ、長持ちしないのに) 
直立不動でひょいひょいと位置を変えつつ、霧を眺める。 

「このせいでレーダーが使えないのに、トイズフェスティバルの配置を読んでるなんて。敵なが 
ら本当にすごい。で、理由だけど、たぶん──…」 

「彼の後を追っていて気づいたけど、百雷銃はかなり規則正しく仕掛けられているようね」 
地図を手にしながら、千歳は木立を歩く。 
彼女は地形の把握が得意だ。加えて、数日前にもこの界隈を探索していたから、どこがど 
うなっているかはレーダーがなくても手に取るように分かる。 
「だから、仕掛けた位置を推測できる」 
地図上の、千歳が駆けつけた時の久世屋の位置に印をつける。 
次に、根来へ教えた「久世屋の移動の方角と距離」を元に、入れ替わり後の場所、つまり百 
雷銃の設置場所に点をつける。 
実際に焦げた木の配置と照らし合わせればより確実だが、あいにく時間がない。 
鶉隠れで破壊された2個の百雷銃の設置場所こそ確認したが、他の、入れ替わりによって 
破壊された所については、根来流の「伝票の合計チェック法」を元に、全設置地点の半分、 
半分、また半分という要領で手早く確認しつつ歩いていく。 
久世屋の後を追う形だから、寄り道にはなっていない。 
そして千歳は砂利道に出た頃、地図上に書き込んだ点──つまり、入れ替えの成否を問わ 
ず、百雷銃が仕掛けられていた木の位置──を 

木木木木木木木木木木木木木木木
19木木木17木木木15木木木13木木
木木木木木木木木木木木木木木木
木木18木木木16木木木14木木木12
木木木木木木木木木木木木木木木
05木木木06木木木07木木木11木木
木木木木木木木木木木木木木木木
木木☆木木木☆木木木08木木木10
木木木木木木木木木木木木木木木
04木木 03, ─── 、木木09木木木.
木木木 ィ        ヽ木木木木木
木木02(   木      )○□木木
木木木 ヽ         ィ木木木木木
木木木木01 ─── ´木木木木木
木木木木木木木木木木木木木木

線で結んだ。 

19   17    15    13   
 \ / \ / \ / \  
  18    16    14   12 
 / \ / \ / \  /  
05   06   07   11   
 \ / \ / \ / \  
  ☆   ☆   08   10 
 / \ /     \ /  
04   03        09 
 \ / 
  02 
   \ 
    01 

「多少の誤差はあるけれど、ダイヤグラムのように規則正しく配置されている」 
「仮にも人間社会で優秀と評されていた男だ。命に関わる武装の配置を、雑然とやる道理は 
ない。何らかの規則性があると見たが、やはり」 
先回りしていた根来が地面から、にゅっと上半身を現した。 
「ええ。この通り。道の向かい側の配置も」 
千歳は地図を見せた。 
砂利道の向こうの部分にも、点と線が書き込まれているが、それらが醸し出すダイヤグラム 
は途中でぶっつりと途切れている。 
「規則性を捉えた以上、奴を斃すのは造作もない。貴殿が地図に記した最後の点から、幾何 
学模様を描くように攻めれば、奴の生命線は7分以内に断たれる」 

「といった所だろうな」 
ほんの1分ぐらい前、実際にあったやり取りを的確に想像しながら、 
「しかしよくもまぁ間髪いれずにここまで読むよあの二人」 
久世家は困惑と感心半々で頭をかいた。 
「またこれだ。今から配置を変えれたらいいけど、解除して再配置する時間はくれそうにない」 
襲い掛かるシークレットトレイルと、ループ状態に、久世家はうんざりしていた。 
既に8つまでトイズフェスティバルは撃破されている。 
「しっかし」 
身代わりになった木がまた爆発した。 
「根来さん根来さん。もうすぐ俺は弾切れですよ。いまの爆発で残り6…アチチ。また爆発し 
た。5つしか仕掛けた奴は残ってないんです。5つっていったら、チェーンマインの半分です。もし 
真っ向勝負を受けてくれるなら、あなたが気にされてた『第三者』についてじっくりお話をして 
みたいんですがどうでしょうーか? ただ敵を倒すだけじゃなく、背後関係を解明するのも、 
組織人なあなたには大事でしょう」 
どこからか、無愛想な声が響いた。 
『断る。貴様は残弾数を近接武器に換算し、『第三者』の情報をエサに勝負を持ちかけたが 
必ず吐くとは何ら保障していない。まずは貴様から斃し、しかるのち霧の主に向かう』 
抜け目も容赦もないセリフに、久世家はがくりとうなだれた。 
「そうですか。根来さんたちから貰える唯一の生存チャンスがこれで潰えた。しかも残り4つに 
減った」 
バァン! 迫り来るシークレットトレイルが木に接触し派手な爆炎を上げた。 

光は霧に乱反射し、久世屋の顔をノイズィに照らす。 
その顔は、落胆に染まって……いなかった。 
「でも」 
ひどく澄み渡った嬉しそうな笑みを浮かべて、久世屋は両腕を前に突き出した。 
「答えてくれましたね?」 
なんというコトであろう! 彼の左右の袖口からビューっと火縄が伸びすさり、土くれに没した。 
「忘れちゃあいけません。俺はコウモリ! 耳はいい! うかつに答えれば場所が分かりッ!」 
ワイヤーが巻き取られるように、地中から戻ってきた火縄の先には、根来!! 
両肘から下を胴体ごとがんじがらめにされている。 
久世家が大きく腕をうねらせると、どういう原理か火縄は根来ともども宙に止まった。 
「よし!」 
縄をがっつり握り締め、久世家は大きく頷いた。 
シークレットトレイルが根来の手首ごと拘束されている。 
「いくらなんでも、刀がいつまでも自動で飛ぶ道理はありませんよね」 
千歳は立ち止まり、声にじっと耳を傾けた。 
「他のホムンクルスや人間ならいざ知らず、俺の聴覚ならばよく分かる! その忍者刀がわ 
ずかばかりの電流を帯びて、バチバチ鳴っているのを! それは神経に通うヤツで、きっと 
動力源の筈!!」 
武装錬金の中には創造者の生体電流を用いて動作するものがある。 
例えば、処刑鎌の武装錬金なら、着装した大腿部からの生体電流で。 
戦輪(チャクラム)ならば、速度、角度、回転数を神経に通う電流でインプットして射出する。 
シークレットトレイルが飛び交う原理も、これらと同じくなのだ。 
ただし、前者二つと大きく異なるのは。 
動力用の電流と、コントロール用の電流が別々な所だ。 
ラジコンで例えよう。 
車に入れられた電池が、動力用の電流。リモコンからの電波がコントロール用の電流。 
普段ならコントロール用の電流は、亜空間内でやり取りされているが、今回は特別。 
現空間に留まってた根来は、千歳による位置報告を即座に電流へと変え、足から亜空間に 
向かって流し込んでいた。 
電流は、攻撃の後に亜空間へ戻ったシークレットトレイルへと一瞬で伝わる。 
先ほどの鶉隠れはそういう操作の元に行われていた。 
本来なら、靴に邪魔されそうな操作法。だが思い出して欲しい。 

彼は爆破により靴を焼かれて今は素足。伝達になんら支障はない。 
ただし流している電流は、ラジコンでいう「リモコンからの電波」であって、動力源ではない。 
飛来するたび、動力用の生体電流を失うのは必然だ。 

「当たらなかったおかげでよぅく観察できましたよ。刀が飛ぶたび電流が薄れていく気配を! 
さらに、10回に1度の割合で早くなるのもね。俺が見抜き、狙ったのはそれ」 
根来たちから少し離れた木の陰で、千歳は思索する。 
(つまり彼は、充電の時を狙った) 
彼女も先ほど見ていた。根来が何度か手元にシークレットレイルを戻すのを。 
武装錬金を熟知している千歳だから、動力源を充電しているとすぐに分かった。 
そして手元に戻すから、ペースは遅れるとも。 
(だから充電後最初の鶉隠れは、ペースを保つために早くせざるを得なかった) 
そして充電は、鶉隠れの10発目を終えた後、必ず行われていた。 
ループを始めた頃も然り、今も然り。 
久世家が残りの百雷銃を残り14発と把握した瞬間、根来の手元からシークレットトレイルが 
放たれ、襲撃を開始した。 
そして今しがたの破壊を以て、残弾数は4発。計算すると、数は10。 
斬撃の数は、10。 
シークレットトレイルを手元に戻す区切りの数だ。 
「当たってるでしょ? 俺の推測。現に刀がそうしてそこにありますしねぇ」 
千歳は頷く。 
久世家の声にそうできるのならば、根来の危機ももちろん知っている。 
だが、焦燥に駆られて飛び出せば失敗するのは明白だ。 
待っているのは、たった一瞬。一撃の後に生じる、重大な一瞬だ。 
どこに行くべきかをしっかり反芻する。 
しくじりはけして許されない。 
(彼は敢えて喋り、敢えて捕まっているのだから) 
千歳の瞳は瑠璃色に濡れ輝きながら、時を待つ。 

「ま、火縄が届くかどうかは博打でしたがね。結構ギリギリですよ。何かあったら切れるぐらいに」 
「大方、百雷銃の余剰部品という所か」 
濃霧の中で枝に頭をつけつつ、根来は冷静に呟いた。 

至って冷静だ。もはや彼の手には何もなく、抗する手立てを何ら持たぬように見えるのに。 
そう。彼の手には何も『ない』というのに……
「撃墜されたコウモリたちの分です。筒1個につき、何cmかセットでついてるんですよ。さて。 
あなたの武器さえ封じればもう決定打はないでしょう。」 
いくら久世家が並みのホムンクルスであり、ヘルメスドライブが硬質を誇る盾であろうと、そ 
れを扱う千歳の腕力が低ければ、殴ったとて斃すまでには至らない。 
ならばいかに忍法を受けても死なない自分の勝利が確定。 
声高に説明する久世家だが、根来はあくまで冷ややかだ。 
「いいのか?」 
「何がですか?」 
「一旦手元に戻しさえすれば、再び飛ばせるというのが貴様の見出した道理だろう。ならば」 
根来を素早く観察した久世家は、喜色が一転、一気に顔を曇らせた。 
そう、根来の手元には何もない。 
捕縛したときにはあった筈のシークレットトレイルすらも!! 
「……ない! というコトは!」 
シークレットトレイルの特性。 
それは斬りつけた物に亜空間を形成し、潜り込めるコト。 
いかな芸当を根来は施したのか。 
久世家の袖口にある火縄から数条の稲妻が立ち上ったと見るやいなや、忍者刀が飛び出した。 
霧を猛然と突き破りつつ顔面狙うは、シークレットトレイル! 
新鮮なる生体電流により速度は戛然! 距離は至近! 
通常ならば回避は叶わないだろう。 
緊縛をもたらす道具を以て、好機につなげた根来。恐るべき抜け目のなさである。 
「しかし!」 
笑う久世家は陽炎と共にかきうせる。 
木が代わりに現われ、シークレットトレイルが掠る。 
爆風をくぐり抜け、転移済みの久世家の横を通り過ぎ、シークレットトレイルは。 
赤い雫に濡れひたった。 
「避けられるというのもさんざん繰り返した道理でしょう?」 
「そうね。けど、今は違うわ」 
久世家は背中に突きつけられた冷たい感触に、息を呑んだ。 
入れ替わり不能の硬直時間にそうされた動揺と、不覚にも生じた食欲の両方に。 

(……甘やかな匂いがするな) 
背後にいるのは、千歳。 
(きっと彼女は手を切ったな。そこまでやるとは予測できなかった) 
無表情のまま、ゆるやかに手を押し込もうとしている。 
(背後に瞬間移動するコト自体は読んでいた。が、それはあくまでっ! 根来さん込みだ!) 
久世屋の胸にある章印目がけ、背中から。 
(先入観に捕らわれていたのは俺こそ! 決定打は誰が使おうと決定打じゃないか……!) 
手にしたシークレットトレイルで、 
(飛んでたヤツを無理やりつかんだらしい) 
ずぶずぶと。 
(つかんだのが先か、俺が攻撃を避けれない一瞬を狙って背後に瞬間移動したのが先か。それ 
は分からないけど、なんて甘ったるい匂いだ。気づかなかったのが惜しいぐらい、いい匂い) 
シークレットトレイルを握り締める千歳の手は、血にまみれている。 
猛然と飛びすさる刃物をつかもうとした場合……
柄を目当てにすれば、掴み損ねる恐れがある。 
だから千歳は迷うことなく、刀身をつかんだのだ。よって、出血している。 
全ては決定打を手にし、久世家の隙を突くためだけに。 

『奴の生命線は7分以内に断たれる』 
久世屋が予想した会話の後、根来は千歳にペンを要求し、地図の片隅にこう書いた。 
『が、第三者の存在が明らかになったいま、百雷銃の全滅より久世屋の抹殺を優先する。 
奴は全滅を防ぐべく何らかの策を隠し持っているだろう。私は敢えてそれに乗り、隙を作る。 
いいか。シークレットトレイルを奴の後ろに飛ばす。移動後の奴の後ろへだ。貴殿はそれを 
使え。少々際どい賭けだが、貴殿の能力は私より不意打ちに向いている』 

(刺さった以上、もはや身代わりは無意味だな。今から転移しても、俺の体に接触しているも 
のはついてくる。じゃなきゃ、俺が服ごと転移する理由がない) 
よってシークレットトレイルも、それを突き刺している千歳も、久世家についてくる。 
つまり回避の手段は、封殺済み。 
以上の思考は、入れ替わりが発動するまでのわずかな時間に行われ。 
久世屋の手元で何かが切れる音がした。 

それはギリギリに伸ばした火縄が、切れる音。 
通常の物理的見地から見れば、根来が引かれる程度で済んだのだろうが…
入れ替わりで久世屋ごと5mほど一気に転移したせいで、一気に伸びてちぎれた。 
根来はまだ捕縛されつつも、ゆっくりゆっくり高度を下げて、やがて地面に落ちた。 
現状が『このまま』推移したなら、彼が自由を取り戻し、千歳に加勢するのは明白だ。 
(先が見えたな) 
久世家は起こりつつある光景をひどく冷静に見据えながら、行く末を悟っていた。 

(この勝負──…

俺 た ち の 勝 ち だ ! !) 

一瞬のできごとだった。 
「クエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!」 
突如響いた奇怪なる声に、銃声が重なるまで、本当に一瞬のできごとだった。 
千歳の視線の先では、恐るべき事態が勃発していた。 
縛られた根来の肩口から、血煙が舞い上がる! 
彼は恐らく、とっさに身をよじって心臓への打撃を避けたのだろう。 
そして傍にはあったのは……新鮮な硝煙を銃口から立ち上らせる拳銃と。 
鼻の大きな薄ら汚れた白スーツの男!! 
「クエエエエエ!!」 
もはや瞳は正気をなくしている。 
瞳がグルグルと渦を巻き、自我があるかも疑わしい。 
ただあるのは、殺意のみ。離れた千歳ですら背筋に冷たい物を感じた。 
男──鷲尾は根来へ銃口を突きつける。身動き取れぬ根来の胸へと密着させて。 
千歳の目に、それらの光景と鷲尾の冷酷な笑みが焼きついた。 
迷う暇は、なかった。 
千歳はシークレットレイルを引き抜くと、根来の下へ瞬間移動した。 

気配を感じた久世家は瞳を濁らせた。 
(ほらね。いま振りまいている血液のように甘ったるい考えこそ、つけいる隙!! ま、別に 
俺が考えたワケじゃあないし、本当にもう一押しでやられてたけど) 

ちょっとバツが悪そうに頭をかいてみる。 
(数の上では一応フェアだけど、実際は俺たちが有利) 
被弾した根来と、戦闘専門でない千歳 
対 
単体では攻撃を当てられないホムンクルスと、銃を手にした元金融会社社長代行。 
(ともう1人。姿を見せない優秀な人。彼が加勢に加わったら、決定的だ) 
さする背中の刺し傷も、ゆるやかながらに回復しつつある。 

「さて。見ものだな」 
森の奥で、金髪の男──総角(あげまき)はボソリと呟いた。 
手にしているのは、鉄の鞭。 
「LXEの連中は馬鹿にしてたが、使いようによってはこうなる」 
景気づけに振るうと、山肌に当たって乾いた音がした。 
「鉄鞭(スティールウィップ)の武装錬金、ノイズィハーメルン。催眠という特性は、行きずりの 
馬の骨をして切札に仕立て上げられるもの。だが正直、扇が降ってきた時は、ヒヤリとしたぞ。 
あのままならば鞭が打てず、奴を行かせられなかったからな」 
じゃらり。 
開いた方の手で認識票を握り締めた。 
「アリスの方も強めておこう。意味は無さそうだが念は入れる。危機に対して備えてこそ、リ 
ーダーたりうる。だが少々、手出しのタイミングがシビアすぎたきらいもあるかな……?」 



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