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第007話 「みんなでお食事」 (1)



客足が遠のいたとはいえそれなりに忙しいお昼時をすぎると、バイト少女は一息ついた。
銀成市にはある意味でとても有名なハンバーガーショップが存在する。
名をロッテリや。
一時期、銀ピカの全身コートや蝶マスクのタイツ男、中国風の巨漢2人などなど、筆舌に尽く
し難い変態どもの巣窟となっていたため、「変人バーガー」という蔑称の方が市民になじみ深い。
さて、お昼をすぎたとはいえやらねばならんコトはたくさんある。
例えばハンバーガーを入れる袋。
これは大きさに応じて4号袋(たい)、6号袋、10号袋とそれぞれ分かれているが、この内6
号袋はかなりの頻度で使用されるので、消耗が激しい。
うっかりしていると折角ハンバーガーができても入れる袋がないという事態を招き、お客様へ
の円滑な商品引渡しが不可となるので補充はこまめに行わなければならない。
あと、シェイクの容器とかポテトの袋とかも補充しなければならないし、ハンバーガーの包みを
留めるテープの残量も見なければならない。
焦がしたパティ(ハンバーガーの肉のコト)など調理に失敗した材料は、ロス一覧という用紙
にその数と名前を記録をつけなければならないし、ああ、パティやチキンなどの材料だって
補充しなければならない。レンジの掃除やフライヤーの油の入れ替えもある。
などと細々展望していてもお客さんは来るもので、バイト少女はにこやかに応対した。
「こちらでお召し上がりますか? それともテイクアウトで?」
彼女は新撰組三番隊組長斉藤一ばりにくぐってきた修羅場が違う。
営業スマイルはさまざまな諦観や涙や苦悩、屈辱や怒りうずまく戦場の中で洗練され、いま
やフッ切れつつも重厚な完成度を誇っている。
「こちらで」
と返答したのは長身に学生服をまとった見目麗しい短髪の青年だ。
傍らには栗色の髪を肩まで伸ばした愛らしい少女が同伴。
きっと部活帰りにデートという所だろう。
両名ともいやに緊張した雰囲気なのがまた微笑ましい。

まひろはいざ食事を始める段になっても口を波線状にもにゃもにゃさせつつ視線を斜め下に
落とし、実に気恥ずかしげだ。
頬はほんのり赤く、ドリンクを運んだバイト少女はクスクスと笑った。
秋水が自分に好意を寄せていると考えないまひろでもない。
他人の恋愛──主にカズキと斗貴子のだが──に何かと黄色い声を上げるのを見ても分かる
ように、まったく恋愛に鈍感なタイプではないのだ。
ただ、いざ自分が当事者になると何をやっていいか分からない。
この辺り、斗貴子と出会った頃のカズキと同じくだ。
彼は肩が触れ合うだけで赤面したり

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を見上げて真赤な顔を背けたりする初心な少年だった。(※ 図は階段を昇る斗貴子)
まひろも今まではそんな感じだった。それで不都合はなかった。
兄の後ろでキャーキャー騒いだり、制服を貸すのがOKだったりOKじゃなかったり、体操着を
貸さぬかと思えばブルマーを満面の笑みで差し出したり、千里やカズキの友人たちの背後で
ヒロインみたいな浮かび方をして核鉄に封じ込まれていたりさえすれば、それで良かった。
が、いまは幸か不幸か、秋水の誘いを受けている。
彼は完璧すぎる。
アプローチをされれば悪い気はしないが、返答を求められると困る。
いい加減な気持ちで返事をするのは悪いし、第一、理想とするカズキと斗貴子にも悪い。
(どうしよ……)
新商品の玄米フレークシェイク(グァバアロエver)を見ながら考える。
これはバニラシェイクにコーフレークを大さじ2杯まぶし、瑞々しいアロエの果肉の上に甘酸っ
ぱいグァバのソースとビスタチオ少々を加えた今夏イチオシのデザートで、まひろのお気
に入りである。
アロエを口に含んでぶよぶよを舐めまわすのが楽しいらしい。
そしてその横ではクラムチャウダーがほかほかと湯気を立てている。
これはパックに入ったクラムチャウダーの素を牛乳と合わせて煮込んで作る奴だ。
平素は円筒状の金属容器に入れて冷蔵し、注文に応じてカップへ移し2分50秒ほど加熱。
その際の注意点だが、クラムチャウダーに含まれる貝柱が加熱と共に爆発してしまうので
ラップをちゃんと掛けて被害を最小限に抑えなくてはならない。
それでもカップの側面に汁が垂れるので、ちゃんと布巾で拭く。
そしてシェイクとクラムチャウダーを同時に頼む感性に突っ込んではいけない。
彼女は冬でもアイスを食べる。犬に転生すれば、セミを喰うのではないかという説すらある。
まひろの苦悩、続く。
(う、嬉しくないわけじゃないけど、あまりヘンなコトをいっちゃ失礼! でも秋水先輩って何が
好きなのかな? あ! そうだまずはそれから聞いてお話の糸口を作るのよ! 何を隠そう
私はネゴシエイトの達人……)

  ,j;;;;;j,. ---一、 `  ―--‐、_ l;;;;;;
 {;;;;;;ゝ T辷iフ i    f'辷jァ  !i;;;;;  になれたらいいな……
  ヾ;;;ハ    ノ       .::!lリ;;r
   `Z;i   〈.,_..,.      ノ;;;;;;;;>  そんなふうに考えていた時期が
   ,;ぇハ、 、_,.ー-、_',.    ,f: Y;;f.   まひろにもありました
   ~''戈ヽ   `二´    r'´:::. `!

ので、ごくごく当たり前の話題をふった。
「秋水先輩の好きな物って何ですか?」
「渋茶」
ぽつりと答えたきり、秋水は沈黙した。
閑散としているのは雰囲気だけでなく、彼の頼んだメニューもだ。
秋水が頼んだ物を羅列しよう。Lサイズのアイスウーロン茶。以上。
まひろは怯んだが、ここで沈黙していては埒が開かない。
アカギもいっていたではないか。動くのが道になると。失敗に囚われて熱をなくすなと。
「秋水先輩、何か食べた方がいいよ。ほら、剣道するんだし。あ、でもひょっとしたら減量中?」
「剣道で減量はしない」
相も変わらず粛然と引き締まった双眸は、乙女心を震わす光を秘めている。
(カッコいいなぁ秋水先輩)
赤い顔で見とれるまひろの前へ、チキン3本と海老カツバーガーとポテトのLが運ばれてきた。
むろん、全てまひろのオーダーである。
(しまった! 頼みすぎた!)
赤い顔が一気に青くなった。おごってもらうのはいいが厚かましすぎて恥ずかしい。
「ゴメン!」
「何が」
秋水は良くわかってないらしい。
「その、メニュー頼みすぎちゃったから! 秋水先輩も良かったらどうぞ」
誓いのように真赤な顔を俯かせ、まひろはもうしどろもどろだ。
秋水は若干きょとんとなった。
「ほほほほほら、だって元々秋水先輩のお金だし! やっぱり食べないと体に悪いよ」
トレーを小さな手で秋水にツツーと寄せて、まひろは懸命に弁明した。
「……確かにそうだな」
ちらりと瞑目して、彼は過去に思いを馳せた。
桜花と共に、飢えて生死をさまよった経験がある。だからまひろの言葉に説得力を感じた。
しかし明眸開きつつ秋水は、意外なコトをいった。
「実を言うと、直接手で掴んだり噛みついたりする食べ方に抵抗がある」
やけに生真面目な秋水に、まひろは少し驚いたが、すぐ優しげな微笑に切り替えた。
「そーなんだ。じゃあちょっと待っててね」
そして海老カツバーガーを手にするとレジの方へ歩いていき、バイト少女と交渉を始めた。

バイト少女はまひろの申し出に嫌な顔1つせず、海老カツバーガーを手に厨房へ引っ込んだ。
そして久しく見せなかった明るい笑顔を浮かべつつ、依頼をこなしはじめた。
おお、店を不法に占拠する変態どもに比ぶれば、今のまひろの意志のなんと素晴らしきコトか!
素晴らしいから手伝うのである。ただし真っ二つだ。なぜなら素晴らしいから。
真っ二つを更に真っ二つ、それを更に真っ二つ……やがてできた。
もう1つの必要物ともどもまひろに渡した。彼女はトテテテと秋水に駆け寄り、それらを差し出した。
「コレなら多分大丈夫!」
左手にあったのは、バーガーラップの中で細かに切られた海老カツバーガー。
そして右手にはフォーク。
秋水はやや面食らったが、意図を察すると軽く一礼して謝意を示した。
要するにフォークで刺して食べて欲しいのだろう。ポテトも同様に。
どうも発想の柔軟性や、交渉への抵抗のなさではまひろの方が上らしい。

その頃。寄宿舎管理人室では、斗貴子が愕然と声を張り上げていた。
「何をいってるんですか戦士長! こ、こんな大事な時によりにもよって、パーティ!?」
割符の探索に数時間前倒しで参加しようと訪ねたらコレだ。
「こんな大事な時期だからこそだ戦士・斗貴子」
防人は1枚の紙を見せた。盗聴を警戒してか、作戦概要が記されている。

・ブレミュの連中が寄宿舎に潜入していないかいぶり出すためだ。
・実をいうと今日、千歳に割符の探索へいってもらうというのはウソだ。朝からずっと寄宿舎
全体を監視してもらっている。怪しい奴が出入りしないかどうか。
・で、夜になりしだい彼女にはこちらへ戻ってもらい、紹介を兼ねてパーティを行う!
寄宿舎にいる者全員を集めて、な。そして見慣れぬ奴や挙措がおかしい者をお前たちに手
分けして探してもらう。
・総角の奴はノイズィハーメルンも使えるからな。生徒に催眠術を掛けてスパイに仕立ててい
るとも限らん。現に、千歳たちの戦いへ浮浪者に催眠術を掛けて乱入させたというし、警戒
する必要がある。

「分かってくれるか?」
半々だ。情報漏えいに対処するのは敵を斃すよりも重要ではあるが、その間に割符を取ら
れてはたまらないという危機感を含ませつつ返答。
「分かりました。で、パーティではアレを出すんですね」
「ああ。野菜ゴロゴロ、肉少々、スパイスごっそり、リンゴとハチミツべっちゃべっちゃぁ!! 
ここまでいえば誰でも分かる、いわずもがなの男の料理! 名づけて! 特性ブラボーカレーを!」
「で、私の役目は」
斗貴子は冷めている。ドラマCD1のテンションで騒ぐ戦士長が世界一のカレーを作ろうと宇
宙一のカレーを作ろうとどうでもいい。任務あるのみだ。
「買出しと調理だ」
「買ってきました!」
10分も立たず斗貴子は野菜も肉も、果ては各種スパイスやらっきょうなど、カレーに連座す
るものことごとく買い出してきた。リヤカーに満載して。
聞けば舗装されていない裏道を選んで、バルスカで地面を突きまくって爆走してきたという。
「さすがは戦士・斗貴子だ! 運搬ぐらいは千歳に頼んだ方が良かったと後で気づきもしたが、
ブラボーだ!! お次は……戦士長として許可する! 存分にその力、発揮させろ!」
「ぶ、ぶそうれんきんっ! バルキリースカート!」
厨房にて斗貴子は、ぎこちない面持ちで武装錬金を発動した。
六角形の光の中、ロボットアームが組み上げられていく。この後画面へ突っ込んだら飾り布
がぐわーで真赤なぁ誓い(ッテッテッテ)……すまない。読者の皆様。
「わぁぁあーっ!!」
もはや斗貴子(B78)はヤケだ。野菜をむんずとつかみ取ってはまな板に乗せ、処刑鎌で皮
やら何やらをズタズタに斬り裂いていく。
まな板を叩く音(勘ぐれば同族嫌悪が混じっていなくもない)や、しゃりしゃり擦れ合う金属音
の中で瞬く間に素材の用意は完了し、鍋に投げ入れる。そして。
「カレー粉をブチ撒けろッ!」
トドメとばかりに鍋へ黄色い粉を叩き込むと、斗貴子は一気にへたり込んだ。
「わ、私は何をしているんだ……戦いもせず一体何を……」
厨房のひんやりした床の上で足を揃えて落ち込んでいると、優しげな声がかかった。
「あら津村さん。下準備ご苦労様。私はこんな野暮ったい作業は不向きなので助かりました」
「黙れ腹黒」
来たのは桜花だ。制服の上にエプロンを着用している。
「見たところお疲れのようですし、カレーをかき混ぜるくらいなら私がやりますけど」
斗貴子は立ち上がると、憎々しげに鼻を鳴らした。
「キミに任せたら何を混ぜられるか分かったもんじゃない」
「津村さん、私を誤解してるようね。混ぜるなら当番じゃない時にコッソリよ。コッソリ、ね?」
桜花は困ったようにてへてへ笑った。
「そっちの方がなおさら悪い! そもそも何か混ぜようとか考えるな!!」
「冗談よ。だいたい言い出したのは津村さんじゃない。困った人ね」
言葉につまる斗貴子を尻目に、桜花はカレーを混ぜつつ秋水の初デートを案じた。

灼熱の太陽が西方にかかり、ぎらついた影を街のそこかしこに落としている。
そこへひぐらしの物悲しい声が響き渡り、紅に染まった世界は寂々とした一種異様な雰囲気だ。

「佐藤。浜崎。B班の連中10人全員いないようだが?」
名を呼ばれた2人の男は、頬に冷汗を垂らしトンネルの向こうに佇む影を見た。
表情こそ逆光に照らされ見えないが、声に含まれた詰りは彼の心証が悪いコトを示している。
「い、今から連絡を取る!」
真っ赤なシャツを纏った長身痩躯の男が慌しく携帯電話を取り出した。
紫がかった肌にボロボロの白髪。頬には口と平行にいくつもピアスを打っている。
彼は2、3回コールをしたがいずれも返答はない。逆光の男から侮蔑交じりのため息が漏れる。
痩男は凶悪な眼窩を血走らせ、携帯電話を乱暴に畳んだ。
「連れ戻してくればいいんだろう!」
「この広い街を探し回って、か? 時間がないんだ佐藤。不確実な方法を提言するな」
「何を……! 調子に乗りやがって! てめぇの腹ン中にあるのは失敗作の方じゃねえか!
『もう1つの調整体』のうちDr.バタフライが廃棄した方のな!」
「止せ。返り討ちが関の山だ」
今にも飛び掛らんとする佐藤を、大男が止めた。
ゆうに185cmはある佐藤よりも上背があり、全身茶褐色。体毛は薄く、短く赤い頭髪を申
し訳程度に生やしている他は、眉毛もヒゲもない。
ただ、本来眉毛のある部分には血のように赤いペインティングを施し、頬や顎、胸の辺りにも
同様のモノがある。男の呼びかけからすると、彼が浜崎のようだ。
「まずは憎き錬金の戦士からだ。ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズの連中も何かとうるさ
いが、まずは戦士の根城・寄宿舎から」
「襲撃開始は本日午後6時きっかり。あと1時間ほどだ」
「んなコトは言わずとも分かってんだよ、震」
刃ささくれる光の輪がすさまじいうねりをあげて佐藤の五体を掠めた。
逆光の男はいつの間にか小型のチェーンソーを持っている。発射元はそれらしい。
佐藤の紫肌が一段と醜く色あせ、恐怖と屈辱の入り混じった震えが走る。
「下らん名で呼ぶな。いま165分割してやってもいいんだぞ。貴様の代わりなどいくらでも作れる」
「佐藤に代わりお詫びいたします」
浜崎が佐藤を抑えながら頭を下げると、男の怒気が幾分引いた。
「この俺、逆向凱(さかむかいがい)が直々に探してやる。貴様らは……」
背後でひしめくホムンクルスの群れを顎でしゃくり、抑えておくよう命じると、ツカツカと歩き出した。
「Dr.バタフライを欠いただけでこの体たらく。所詮烏合の衆か……まぁいい。ムーンフェイス
様が戻られるまでの辛抱だ。算段はつけてある。『奴ら』への残存兵力と『もう1つの調整体』
の提供と引き換えに、な。烏合といえど数は数。せいぜい利用されるがいいクズども」

カレーの匂いがうっすら立ち込めてきた寄宿舎近くの道路では。
「ちょ、ちょっとやめて下さい…… 警察呼びますよ」
柄の悪い男3人に囲まれた少女が目を白黒させながら必死に抵抗していた。
絡まれたのは服装のせいだろうか。
この辺りでは斗貴子ぐらいしか着てない制服だ。だから目立つ。
「いいじゃねぇかよ。俺らにちょっと付き合えよ」
「6時になるまでヒマで腹ペコなんだよお嬢さん」
「だから、喰わせろぉ〜!!」
男たちの頬はひび割れ、鋭利な牙の羅列が夕暮れを反射した。
「ひゃ、ひゃあ!」
日常から非日常の転換。可憐な少女はへなへなと腰を抜かして涙を浮かべた。
「ちょっとちょっとちょっとぉ〜!」
その危機的状況へ無遠慮に入った横槍の声。男たちと少女は発生元を探した。
「とあーっ!」
続いて、影が近くの木の枝から飛び出し、男たちと少女の間に着地。
シャギーとメッシュの入った髪と強気そうなアーモンドの瞳を持つ少女だ。
タンクトップからは深い谷間が覗き、汗の玉がそこへ飲まれていく。手には水入りペットボトル。
「ああもう。戦士にちょっかい出せっていわれてもさ、ゴゼンぐらいしか割符さがししてないか
らロクにできなかったじゃん! んで、あのおっきな建物見張ってたら近くでこんな騒ぎ……」
「誰だてめぇは」
「栴檀香美(ばいせんこうみ)。厄介ごとに首つっこむのもどーかと思うけどさぁ〜 弱いもの
イジメに関しちゃ別よ! する奴はぎゃーの刑よ! 歌にもあるじゃん歌にも。見て見ぬフリ
なんてできないのさ、邪悪のゴズマをキャッチしたぜ〜♪って」
男たちも少女も、この乱入者を持て余し気味に見つめた。


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