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第027話 「動き出す闇(前編)」



まず本稿を描く前に一つの武装錬金に対する注釈を設けておく。

アンダーグラウンドサーチライト。

創造者 … ヴィクトリア=パワード。
形状   … 避難壕(シェルター)。
特性   … 亜空間への避難壕(シェルター)製造。
特徴   … 入口を閉じた状態での発見はほぼ不可能。
        広さと内装は変幻自在。
        (ただし広さや複雑さに比例して創造者への負担は大きくなる)
        水・電気は現実空間の水道管や電線から拝借可能。

秋水が斗貴子に半ば連行される形で管理人室に入ると、すでに見慣
れた顔が卓を囲んでいた。
防人は斗貴子の顔を見ると困ったように頭をかき、千歳はいつものよう
に無表情、桜花は秋水に「まひろちゃんとの会話は楽しかった?」とい
いたげな顔で微笑んで見せて、その横では何故か御前が怒ったように
せんべいをバリバリとやけ喰いしている。
剛太が不在なのは、まだ入院中だと聞き及んでいるから不思議でもな
いが、考えればほぼ時を同じく入院した斗貴子がこうして寄宿舎にいる
のはおかしいといえる。
おかしいといえばヴィクトリアの気配がそうなのも秋水は気づいていた
が、斗貴子が断固として私語を許さぬ雰囲気を漂わせているせいで、
ここまでの道中話しかけるコトはできなかった。
秋水が着座すると、ヴィクトリアも向かい側でそうした。
わずかだけ秋水を見たような気がしたが、真偽のほどはわからない。
「本題から入るぞ」
一座の中で斗貴子だけは棒立ちだ。
本来なら入院中すべき体だから顔色は青く、今にも細い体がくずおれ
そうな気配がある。
だがそれに負けじと瞳が憎悪にひきつりながら一座の一人を捉えた。
秋水ではない。
秋水ならば、彼自身の抱えている様々な問題と照らし合わせたとしても
まだ耐えるコトができた。試練の一つと受け止め、戦うコトができた。
しかし。
斗貴子が見ていたのは。
ヴィクトリアだった。
「お前は敵と内通しているな?」
よく考えればそれを聞きたいが故に連行してきたのだろう。
ホムンクルスに甘言を吐けるような性格でも前歴でも精神状態でもない。

「根拠はなんだ」
一座の中でまず言葉を吐いたのは秋水だった。
瞳の中には言葉半ばで止まる姉や上司がいて、それらより早く行動に
移った自身の対外的な俊敏さに内心驚きもしたが、それどころではない。
頭の中では数万語が沸騰し、必死に論理的な弁護を探している。
ともすれば斗貴子に対する怒りをまず第一に吐き散らかしかねない
ほどに精神は沸騰状態にある。
「彼女がホムンクルスに与する理由はない。前歴を君も知っている筈だ」
戦団の手によってホムンクルスとなり、地下で母と二人百年も過ごして
きたヴィクトリアだ。錬金術の産物なら核鉄であろうとホムンクルスであ
ろうと戦士であろうと嫌悪しているのは、ここにいる者なら誰でも知って
いるコトだ。
「もちろん知っている。だからこそ私たちに与する理由もない」
知悉しているからこそ斗貴子の文言にも一応の筋は立っている。
「だが……」
言葉につまった秋水を見かねたか、御前が軽い調子で言葉を継いだ。
「てかツムリンよー、お前のいう敵って一体ダレ? いろいろいるよなー
L・X・Eの残党だろ、ブレミュの連中だろ、後は大戦士長さらった連中」
ない指を曲げる仕草で敵を数える御前へ涼やかな声がかかった。
「ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズね」
千歳の断定的で神秘的な瞳が斗貴子に向いた。
「あら、じゃあ津村さんが内通を疑ったのはいつかしら」
「数日前の戦闘だ」
「なるほどね。で、裏は取ったのかしら? 内通しているって証拠は?」
「それは今から取る」
桜花は肩をすくめてやれやれと笑って見せた。
「駄目じゃない、裏も取らずに人を疑っちゃ」
「フザけるな」
一座を冷たく凍てつかせる低く押し殺した声が、柔らかな唇から洩れた。
「そいつは人じゃない」
獣を嘲るような声だった。まったく殺意と憎悪しかない冷徹な声だった。。
「今は繕っているがいずれ本性を現すに決まっている。人喰いの本性をな」
ヴィクトリアの肩が一瞬震え、更に俯きが深くなった。
秋水は斗貴子とあまり相性はよくないと思っていた。
相性がよくないだけで、斗貴子本来の性質というのはけして粗暴でも
凶悪でもなく、弱者に対しては決して優しさを忘れえぬ人間だと、敬意
を払うべき人間だとも。
だが今、嫌悪に流された。
斗貴子の言葉でヴィクトリアの影がますます黒くなったのを見た瞬間、
仄かな敬意を激しい嫌悪が押し流した。
まひろの斗貴子に対する配慮が蘇る。
彼女は傷つきながらも斗貴子を気遣って、劇の練習に勤しんでいた。
斗貴子の傷心の原因すら自分にあるとまひろは思い、月を見上げて
泣いていた。
そういうまひろの姿を引き合いに出して、「一体君は何をやっている」と
怒鳴りつけたい気分になる。
が、彼がそれを半ば実行に移そうとした瞬間、別の声が飛んだ。
「今のは失言だぞ。戦士・斗貴子」
不精ひげを生やした気のいい顔が、この時ばかりは厳然と強張り斗
貴子の顔を見据えていた。
どんな心情が場に伝播したからは、御前が一番よく証明していた。
目から涙を丸フラスコ状に垂らしながら「ブラボー怖ぇ」と涙を流しつつ
桜花の後ろへ素早く隠れ、同時に秋水は同じ感想で肝を冷やした。
「しっかりしないか。いかに戦闘で傷つき、不安定な精神だったとして
も、ふだんの君ならああいう失言はしないぞ。少しは落ち着く事だ。で
ないと俺は戦士長の権限において君を病院へ強制送還さざるを得ない」
ヒビ割れと「ぶらぼぅ」という筆字と年季の入った湯呑を口に運ぶと、
防人はそれきり黙った。
気まずい雰囲気が斗貴子と防人の間から部屋中に広がる。
こういう時に場を繕えるのは桜花であろう。そういう『華』を持っている。
「ごめんなさいね。いきなりこんなコトになっちゃって」」
ヴィクトリアに微笑んでみる。
が、相手の表情を見て息を呑んだ。
頬からは血が引き、耐えるように噛みしめた唇はホムンクルス特有の
修復作業が巻き起こり、無機質なパネルがしゅうしゅうと傷を塞いでは
また剥離して回復と損壊のいたちごっこを繰り返している。
瞳は前髪に隠れて見えないが、ひたすら沈みきっているのは明白だ。
そういえば桜花と互角かそれ以上の毒舌家のヴィクトリアがあれだけ
のコトをいわれてなぜ黙っているのか。
沈黙にはどこか肯定の気配すら漂っている。
(まさか、ね…… 津村さんのいうコトが図星なワケないわよね……?)
「とにかくまずは落ち着いて話をしましょう」
密かに芽生えた狼狽ゆえか、千歳の声にすらビクっとした。
とりあえず正体不明の動揺を振り切るように、務めて明るい声を出した。
「まずは『なぜ津村さんが内通を疑ったか』からね。あ、コレは別に津村
さんを責める訳じゃないから。ほら、津村さんの気にしているコトを皆で
考えたら、何かの手がかりを得られるかもしれないし、ね?」
元来は真面目な斗貴子だ。やんわりと自分の意見を肯定されてしまう
と怒り辛くなるらしく、少しだけ張りつめた黒い空気が萎んでいくのが
皆の目に映った。
「それは──…」
斗貴子の口から、一つの武装錬金の名前が漏れた。

「アンダーグラウンドサーチライト」
総角は部屋を見回すと、魔法の呪文のように軽やかに唱えた。
「あんだーぐらうんどさー…ぐにゃっ! 舌噛んだじゃん」
まだ微熱で頬が赤い香美は顔をしかめて舌を出し、指でなで始めた。
「フ。普通噛まないぞそこは。つかいじるな噛んだ場所を。雑菌が入る」
まだいぐさの匂いも真新しい和室だ。
ちょうど八畳で床の間があるが、いずれの上にもまったく何の家具も
調度品もなく、引っ越し直前か直後のようにがらんどうとしている。
予備知識のない者には、まさかここが地下にある部屋で、畳も床の間
も鉄刀木(たがやさん)でできた見事な床柱も、総て武装錬金で形成さ
れた物だとは想像もつかないだろう。
現に香美なども信じていないらしく、何度も何度も総角に質問している。
「なんでこーいうのが作れるワケ? ちっとも分かんないじゃん」
「特性だからな。お前はハイテンションワイヤーがなぜエネルギーを
抜き出せるか説明できるか? できないだろう。それと同じだ」
「あたしにそんなむずかしいコト、できるワケないでしょーが」
そっぽを向いた香美に総角はやれやれとため息をついた。
「でもさでもさ、いったいぜんたいいつこんなの手に入れたのよ? こ
んなんあんならさ、さっきあたしらあんなせまっくるしいところにいなく
ても良かったじゃん!」
やたら平仮名が多い。アークザラッド2に出れば火属性に違いない。
「さっきといっても三日ぐらい前だがな。で、狭い場所は神社だったな。
まー、あの時はこれを入手していなかったから仕方ない」
「ふーん」
香美はヒマになってきたらしい。ネコ耳を出してぴょこぴょこ動かした。
「フ。そういう態度は頂けないな。コレはいちおうお前と貴信の命を救
った武装錬金だぞ」
「んにゅ? それどーゆうコト?」

「数日前…… 私がネコ型ホムンクルスを追い詰めた時」

──貴信を取り囲むように六角形の輪郭が地面に現出した。
──それは一瞬にして穴となり、レンガ壁を覗かせながら貴信の体を地下へと落としていく。
──この現象に、斗貴子は見覚えがある。どころかこの春先と夏に二度も体験した。

「あの総角とかいう男がアンダーグラウンドサーチライトを使って仲間を
助けるのを確かに見た」
語る斗貴子の瞳は屈辱と怒りに燃えている。
思い出すだけでも許せないのだろう。
カズキとの別離のトラウマをアリスインワンダーランドで刺激した総角が。
「だから内通を疑ったというワケね」
桜花は頷き、御前も続く。
「でもよー、なんで内通先がブレミュじゃないかって分かったんだ」
自動車ライトのような瞳が千歳を捉えた。
「簡単な話よ。すでに今の話は聴取済みだから」
「ナルホド」
「しかし、それだけで内通を疑うのは少々軽薄だと思うわ」
実に千歳の発音は滑らかで事務的明瞭さに満ちている。
「総角主税の武装錬金の特性は

『直接見た武装錬金または創造者のDNAを得た武装錬金の再現』

というのは周知の事実。現にこの夏の別任務では、私と戦士・根来は
戦いで流した血を採取され、総角主税に利用される結果になったわ」
こういう会議じみた集まりになると、どうも秋水の発言は少なくなる。
彼は彼で真剣に討議の内容を聞いているのだが、発言すべき内容は
どうも見当たらない。ただ頷くしかないというのが実情だ。
「そういうコトがあるから、彼が武装錬金を使ったからといって内通を
疑うのはあまり好ましくないわ。むしろ、知らず知らずのうちに採取さ
れてしまった可能性こそ疑うべきよ」
「……しかし」
千歳は斗貴子に近づくと、肩に手を当てた。
「いろいろあって辛いでしょうけど、自分を見失っては駄目よ。私には
今のあなたが、ヴィクトリア嬢を責めるためだけに無理に口実を見つ
けているように見えるわ」
「そんなコトは……」
二の句が継げない所をみると、斗貴子自身も自覚があるのだろう。
「まーまー、気にするなってツムリン。早とちりは誰にだってあるさ」
ヒキガエルのような声を洩らしつつ、御前が斗貴子の肩を叩いた。
「そうね。むしろどうやって採取したか考えて、それを防ぐ方が今後の
ためよ。秋水クンもそう思うでしょ」
「ああ。今、これ以上総角にこちらの武装錬金を使わせるのはマズい。
例えば防人戦士長の武装錬金を使われてしまえばそれだけで手だし
ができなくなる」
当の防人もコレには首肯せざるを得ない。
シルバースキンは並外れて硬い上に、攻撃で砕けても即時再生する。
防人のコンディションが十全だったとしても、その超人じみた攻撃力で
破れるかどうかは正直分からない。
「今は戦力が少ない時だから、なおさら……」
軽く付け加えただけの現状説明だったが、秋水はそれで余計な敵意を
浴びる羽目になった。
「負けた私への当てつけか」
斗貴子が苛立った目で睨んできた。
「当てつけではない。俺はただ現状をいっただけだ」
「どうだろうな」
彼女にしてみれば、自分が戦っている間寄宿舎にいた”だけ”の秋水
が許せないのだろう。
さきほど秋水がまひろの部屋で親密そうにしていたのも悪かった。
寄宿舎にいる間ずっとああいう態度だったのではないかという疑念が
生じている。
「……あー、なんだ。戦士・秋水はいざという時の守りの要としてだな、
俺が寄宿舎に割り振った。君が懸命に闘っている時に加勢させれな
かったのは俺の采配が悪いせいだ。あまり責めないでやってくれ」
といってから防人は「しまった」と思った。コレでは秋水だけをひいき
しているといわれるかもしれない。
実際問題、気迫と権力さえ行使すれば斗貴子を抑えるコトはできるが
それでは彼女が鬱屈するのは目に見えている。
「しかしだな。君がかなりの数のホムンクルスを斃してくれたおかげで
今は守りに力を割かなくてもいい。今度闘う時は戦士・秋水に働いて
もらう。それで……いいか?」
ええ、と力なくうなずく斗貴子に防人はふぅっと息を吐いた。
(幾つになっても女の子の扱いが下手ね)
千歳もため息をつきたくなった。
「で、DNAの採取をどうしたかってコトだけど」
「ほらこの前カレーパーティやった時、猫娘がびっきー抱えて飛び込ん
できただろ? あん時さりげなく髪でも取らせてたんじゃね? 総角」

「残念。不正解だ。というか命じられたかどうかぐらい覚えておけ」
ほぼ同刻に御前と同じ疑問を香美にブツけられた総角は胸の前で×
を作った。
「んじゃさ、なんかガラ悪いのをばーんってやった後にさりげなくとか!」
『ああ、逆向凱とやらにニアデスパピネスを撃ち放った時だな!』
ようやく貴信が喋り出した。聞けば眠っていたらしいが本題とは無関係。
「それもない。フ。いくらなんでも初対面のお嬢さんの髪を引き抜くほど
俺は不躾ではないしな。もっとも、小札の頭のてっぺんにほつれ毛が
あればそれを不意打ちで抜いて『ぬぬぬ! この電撃的痛みはよもや
不肖の髪を引き抜かれた痛み! うぅ、そーいうのは事前にいってほし
いものです。不意の痛みに期せずして涙が……くすん』といわせるのは
大 好 き だ が !」
『はーっはっはっは! 分かる! 僕にも分かるぞぉ! 男のロマンだ!』
「だろ?」
ワケのわからないところで意気投合している二人に香美はため息をついた。
「で、どうやってあのコからDNAとったのよ?」
「ああ、それはだな」
この時、襖を前足で開けて無銘が入ってきた。
えびせんべいみたいな色の体毛を短く全身にまぶしたようなこの小さ
なチワワを見た総角は、わざわざ彼の耳に届くように声を大きくした。
「鐶だ。アイツの特異体質のおかげでな、あのお嬢さんのDNAは想像
以上に容易く採取出来たぞ。な、無銘。すごいな鐶は」
「……彼奴が何か。居るのであれば我は退く。断固として地平の彼方迄」
「いやこちらの話だ」
嫌そうな顔のチワワを総角は愉快そうに見た。

「ともかく、ヴィクトリア嬢が的に内通しているという証拠はないわ。今
までもこちらの情報が筒抜けになっているフシはいくつかあったけど」

例えば、千歳が寄宿舎に現れると同時に、総角がアリスインワンダー
ランドでヘルメスドライブ対策を取った事。
例えば、銀成市に到着したての剛太の容貌が、すでに貴信や香美に
割れていた事。

「総角主税がヘルメスドライブを持っている以上は漏洩しても仕方ない
でしょうし、私の到着はヴィクトリア嬢が寄宿舎に来る少し前のコト。内
通していたとしても、情報の流しようがないわ」
つまり、ヴィクトリアの内通している可能性は低い。
低いにも関わらず、彼女は先ほどからまるで反論も抗弁もしない。
「何かいったらどうだ」
斗貴子は高圧的だ。もっともその高圧さというのは今度は自身が糾弾
されかねない立場にあるための、自己防衛が多分に含まれているが。
「……別に」
ヴィクトリアの甘い声が噛みしめた唇の奥から洩れた。
秋水はその顔を注視していて、一つ気づいた。
息が荒い。肩も震えていていったい何をしているのかと指先を見れば
スカートの端を強く握っている。
肌には玉のような脂汗すら散見される。
秋水は、迷った。
気づいた事柄を果たして秋水とヴィクトリアの個人間のみで処理すべ
きか、それとも戦士の関係者がみな集結しているこの場所で指摘すべ
きかどうか。
逡巡の気配。
ヴィクトリアはなぜか秋水を見た。
冷たい冷たい、本性の瞳で。
それはかすかに充血して、いずれ血走りが瞳を真赤に染めるのでは
ないかと思われた。
見えない空気の中、交差する夢と欲望。
瞳の奥に満ちている物から秋水は完全なる確証を得て、知られたコト
をヴィクトリアは知ったようだった。
「一つ、教えてあげるわ」
ヴィクトリアはやおらに立ち上がった。
この時、彼女の右手がスカートのポケットに突っ込まれているのに気
付いた者はいなかった。
「さっきあなたがいったコト、半分は当たっていたわよ」
秋水は後々まで悔やんだ。
もしヴィクトリアの右手を見逃さなければ。
この後、彼女と秋水の間にとても独力では修復不可能な亀裂が生じて
しまうコトはなかった。
「”今は繕っているがいずれ本性を現すに決まっている。人喰いの本性を”
……あなたは正しい。だから反論なんかしないわよ。しても見苦しいだけ」
武装錬金発動の光がスカートから迸った。
そう認識した瞬間、ヴィクトリア=パワードの姿は寄宿舎管理人室から
忽然と消えうせていた。

時系列はやや遡る。
入浴を終えたヴィクトリアがいつものように千里の部屋に入った時。
母親に似ている少女の顔を見た瞬間。
ヴィクトリアの体をおぞましい電流を貫いた。
衝動。
嘔吐をこらえるように口を押さえて後ずさったヴィクトリアを千里は心配
そうに覗きこんできた。
オーバーラップした。母親の顔と。
……ヴィクトリアは百年の間、食人衝動を人を殺す事なく満たしてきた。
その手段は。
母・アレキサンドリアのクローンの捕食。
そして若宮千里はアレキサンドリアに似ている。
クローンのように、似ている。


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