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第041話 「蝶野邸へ(後編)」



 銀成市市街地の山の手に、いまは住む者のない屋敷がある。
 通称オバケ屋敷。かつては蝶野一族──明治時代から続く貿易業を営む資産家──とそ
のボディーガードたちが住まっていたが、この初春、彼らは忽然と姿を消した。
 以来ここに住む者もなく打ち捨てられるままになっている。
 人々は常に成功者のスキャンダラスな話題を求めている。
 だからマスコミは蝶野家の人々の、失踪として片付けるにはあまりに不穏な痕跡の数々を
一時期これ見よがしにあげつらい、銀成市市民の耳を楽しませたものだ。

 曰く、彼らの失踪に先駆けて長男が寄宿先から姿を消した。
 曰く、失踪したと思われる日に多くの銃声が響いた。
 曰く、その直前、傷まみれの不審な高校生が蝶野邸を訪れた。
 曰く、住民の服だけが残されていた。
 曰く、屋敷の至るところに争ったような跡があった。
 曰く、にも関わらず血痕は蔵と書斎にしかない。
 曰く、幾つかの蔵には猛獣が突進したような風穴が開いている。
 曰く、その風穴を辿ると、まるで何かを衝突させ磔にしたような痕跡がある。
 曰く、そういえば長男の失踪の直前にも寄宿先が原因不明の半倒壊を遂げた。
 曰く、銃声のあと銀色に光る人影が「何か」を担いで立ち去った。
 曰く、これまた見慣れぬ風体の男女数名、銀色の影を窺っていた。

などなど。
 神隠しか資産狙いの強盗か、もしくは何らかの抗争かと所説は様々に渦巻き、果ては銀色
の影は宇宙人で大規模なキャトルミューティレーションが発生したというトンデモ学説も飛び出
したが、やがては銀成学園高校での集団昏倒事件に端を発する世界各地での謎の昏倒事件
へと人々の興味は移っていき、目下蝶野邸は話題の外。ただ門扉にキープアウトのテープを
貼られたまましばらく放置されている。
 
 九月三日の銀成市は明け方より快晴であったが、山の手にある蝶野屋敷だけはうっすらと
霧が立ち込めており、道行く者は以前の事件と突き合わせて気味悪そうに遠望していた。
 ちなみにここは市街からひときわの高台にあるため、下界からかなりの階段を上らねばキ
ープアウトのテープすら直視できない。
(もっともそんな苦労するのは人間だけだけど)
 蝶野邸の庭に穴が開いた。最初は六角形を模した光線だったそれは一瞬で人一人が通れる
ほどにまで拡大し、亀甲模様を描きながらそれに沿ってブィンと無機質なドア開閉の音をあげ
地下へ通じる穴を開けたのだ。
 出てきたのがヴィクトリアである以上、穴はアンダーグラウンドサーチライトによる物であるコ
トはいうまでもない。
(高台でも地下は地下。地下なら電気を拝借してエレベーターで昇るコトぐらい造作もないわ)
 この武装錬金は地下に変幻自在の亜空間を作り出せるのだ。
 フンと鼻を鳴らしてちょっとした優越感を覚えながら薄い霧にけぶる辺りを見渡す。
 日本庭園。そんな形容がぴったりの場所だ。
 足元には堅い石畳があり、すぐ横には大小様々な灰色の石で縁取られた小さな池と、うっす
ら苔の浮いた石灯籠が並んでいる。視界の彼方には枯山水すら認められた。テニスコートほど
の面積いっぱいに砂利を敷き詰め、そこに一抱えもある奇岩をぽつぽつと点在させる枯山水は
日本人なら多寡問わずわびさびを感じるところだが、欧米人たるヴィクトリアにはどうでもいい。
 むしろその枯山水が接地する瀟洒(しょうしゃ)な建物こそ目を引いた。
 蝶野邸。父・ヴィクターがかつて眠っており、今はヴィクトリアの飢餓を解消する場所。
 だが。
「何ココ。こんなに広いなんて思ってなかったわよ」
 元々釣りあがり気味の瞳を更にキツくして、記憶の中の総角に毒づいた。
 庭を見た時もしやと思っていたが、眼前に広がる屋敷の広大さに確信した。
 ここは広い。しっとりと立ち込める薄霧を差し引いても塀の影すら見えぬ。庭のところどころ
に竹垣はあるがそれは何らかの日本庭園的な様式の区分で設けられているようであり外界
と隔絶する物ではない。
 さればと振り返ってみればますます広大さを痛感しげんなりとした。
 何故ならば寄宿舎の四分の一ぐらいはありそうな蔵が冗談のように林立していたからだ。
 父の痕跡も飢餓解消の施設も、簡単には見つけられそうにない。
 そう悟ったヴィクトリアは鼻白んだ。

「さていち早く到着いたしましたのは金髪眩しい白皙のお嬢様っ! うろうろうろ〜と邸内へと
参ります! されどされどそちらは残念ながら不正解……」
 竹垣の影からひょいと飛び出てヴィクトリアの後ろ姿を見た者がいる。
 小学生並に小さな体。頭にはシルクハット。肩の前でちょんとくくったおさげ髪。……小札だ。
「むしろあちらこそ探るべきなのであります。とはいえもりもりさんからは教えてはならぬと申
しつけられておりますゆえ、不肖はただただ機を待つばかり」
 マイク代わりのロッドを口から放して、蔵に目をやる。
「さ、さささて、どうなりますやら……場合によっては不肖も本格的に戦うワケでして」
 どきどきとした緊張が小さな体から漏れる。

 秋水が紫の竹刀袋を忙しく揺らしながら、無限に続くと思われる階段を一気に駆け抜けた。
(この霧……まさか)
 元L・X・Eであり、その盟主と今向かう邸宅の関係を知悉する秋水にとって『霧』なるものが
立ち込めているのはひどく暗示的である。
 事実目を凝らせば霧は自然の霧らしからぬ金属の光をチカチカ瞬かせている──…
(総角)
 いまこういう霧を張れるただ一人の男を秋水は想起し、竹刀袋を握りしめた。
 核鉄を持つ彼が今さら竹刀? いや、竹刀袋は先端が緩やかにしぼみ天に掲げれば布が
だらしなく垂れるであろう。すなわち、袋の全長より短い『何か』が収められている……

 居間、玄関、応接室とひとしきり邸宅をめぐったヴィクトリアは、倦怠感と耐えがたい飢餓も
手伝ってひどく苛立ち始めていた。
 彼女の求める者はまだ見つからない。要するに普通の家屋なのだ。
 いや、正確にいえばあちこち破損しており尋常の物ではない。
 桟も剥き出しに破壊された襖は一つや二つではないし、鋭利な何かで四つに斬られた障子が
部屋の内側に向かって散乱しているのも見た。
 異様といえば異様だが、しかし置かれている物はまるで錬金術の産物とは無縁だ。
 強いて言うならば破壊痕か。凄まじさから見てホムンクルスの仕業といえなくもないが、それ
だけならば「ただの家庭が襲われた」ぐらいの、手がかりにならぬのを含めたあらゆる意味で
ヴィクトリアが嫌悪する普通の家屋だ。
 書斎に至っては床の中央にドス黒い血痕が染みついて、すぐ傍では机が引き出しを上に向
けて倒れている。机に乗っていたのだろうか。本や万年筆が散乱し、傘の割れた電気スタン
ドが埃を被っていた。
 結果的に、ココを訪れたコトが収穫に繋がった。
 最初はアルバムを見た。よく似た顔の兄弟の成長記録があった。前髪を奇麗に真ん中で分
けた色白でやせ型の三白眼の兄弟たち。写真の下に添えられた文章によると双子ではなく
一つ年の離れた兄弟だったらしい。しかし兄の方が高校入学したのを機にアルバムは弟の
方しか写さなくなった。
 そして「家督相続決定の記念にて」と注釈ある弟の記念写真を最後にアルバムは一枚の
写真もなくなった。その日付が今年の物だったから、おそらく失踪前最後の写真ではないか?
と思ったヴィクトリアは同時にその弟の顔に少しデジャビュを感じた。
 目や髪、色白の不健康そうな肌はどこかで見たコトがある。
 ただし雰囲気は違う。『どこかで見た』顔はもっと傲岸で自信に満ち満ちていたが、写真の
弟はむしろ劣等感からようやく解放されたという風で弱々しい。
 例えば、そう。途中で消えてしまった兄の方が雰囲気としては近い。
 ひとまずアルバムを逆にめくって兄の写真のある所まで戻り、凝視した。視覚に焼きつかせ
記憶にある近しい顔を探る。
 ヴィクトリアにとって幸いだったのは、百年来女学院で暮らしたコトだ。猫を被って接したの
はほとんどが女子で、男性との出逢いは数少ない。
 更には一般人に無関心であるから記憶に残っている男性というのは十指に限定される。
 すなわち、戦士かホムンクルスか。嫌悪という一種最大の関心に基づく記憶から探ると、凝
視する写真の男と似た者は案外早く見つかった。
「……まさかあの時の蝶々覆面(パピヨンマスク)?」
 古巣たるニュートンアップル女学院で遭遇した怪人のような男。
 顔こそ秘匿されているが前髪と目つきは同じ。身長も同じだ。
 となればである。母・アレキサンドリアは言っていた。彼は錬金術師だと。
 そしてココは彼の住居であったコトは想像に難くない。
(けれど錬金術の痕跡はない。つまりあの男が秘密裏にどこかで行っていたワケね)
 が、推論は明確なる所在にはつながらない。すなわち振り出し。
(けど、蝶々覆面のコトを知れば手がかりが見つかるかも……気に入らないけど)
ヴィクトリアが他に本を探そうとすると、足元で軽い衝撃が走った。
 見れば万年筆を蹴ったらしい。机から落ちたままずっとそこにあると思しき万年筆を。
 一瞬見過ごしそうになったヴィクトリアだが、一つ疑問が浮かんだ。
 万年筆はフタを尻につけた状態でそこにある。つまり筆先が露出しているのだ。
(というコトは……)
 机の傍で人の字になって這いつくばる本の背を摘みあげた。
(やっぱり
 日記だ。達筆で日々の事柄が綴られている。もどかしげにページを一気に最初までめくり
あげたが蝶々覆面がアルバムから消えたよりもっと後の日付。彼への記述はなさそうだ。
 もっとも着想を得たヴィクトリアは幻滅するより先に日記の背表紙を見た。
 笑みが浮かんで仕方ない。執筆者の几帳面さに助けられた。
 背表紙には今年何番目の日記かナンバリングが施されている。金箔を押したような煌びや
かな装丁なのはいかにもこの豪邸の持ち主らしくもある。
 素早く背表紙の文字を目に焼き付けて書斎から該当する物を探す。あった。
 一年平均二〜三冊のペースで整然と並んでいる。そこからアルバムから兄の消えた頃の
物を引き抜いて流し読む。
 結論からいえばやはり兄は死んではいない。高校入学と同時に難病を患い、闘病が進みに
つれて徐々に期待が失われていく様が綴られていた。
 そうしてたっぷりの文字を読んだ。実に二年分はあったろう。ヴィクトリアの求める核心があった。

──あいつは時折蔵の中に閉じこもるようになり

 と病気の息子の奇行を嘆く文章にヴィクトリアは直感した。
(蔵の中なら……)
 例えば百年前に父・ヴィクターをしばらく眠らせるコトは可能だったろう。
 同時に錬金術に必要な様々な物を隠しすコトも。
 気づいてしまえば何故初見で気付かなかったのか不思議なぐらいだ。
 ヴィクトリアは立ち上がり、蔵へ向かって歩き出した。

 その頃、秋水の駆け上がった階段とは別の、いわゆる裏口の方から密かに蝶野邸へ侵入し
た影があった。
 たおやかな黒髪を腰まで垂らしたその影は、何かを探るようにそろりそろりと霧の中を進んで
いき、ピタと立ち止まった。視線の先には竹垣に隠れて向こうを覗く小さな影──…

 ようやく目的地についたというのに、ヴィクトリアは慄然としていた。
「やはりココに辿り着いたか」
 一体この男はどうして何度振り払い邪険にすれど追ってくるのか。
 むしろ恐怖に近い感情で相手を見たのは、ヴィクトリア自身否定はしているが内心の奥底で
協調したいと願っているからに他ならない。
 早坂秋水は薄暗い蔵の中でヴィクトリアを直視した。手には紫の竹刀袋を持っているが、攻
撃するつもりはなさそうだ。
「少し考えれば分かるコトだった。俺は戦団ではなくこの場所をまず引き合いに出すべきだった」
 何をいっているかは分かっている。ヴィクトリアの糧秣の獲得手段だ。確かに恨み深い戦団
よりはまがりなりにも父と縁のある場所に頼る方がいい。
 されどヴィクトリアは。
 本音をいうより先にアンダーグラウンドサーチライトを展開し、地下へ埋没。
 自分でも煮え切らない、情けない、どうしようもなくつまらない行為だとは分かっている。
 けれど対話を避けねばそれまでしがみついていた物が何もかも無駄になるような気がして
逃走を選ばざるを得なかった。
 
 一体どれだけの距離を埋没しただろうか。
 息せきながら天井を見上げ、全身全霊でここに通じる穴を封鎖する。
 もはや外界から隔絶された亜空間の完成だ。煉瓦造りの六角通路に佇む心持は鉛を飲んだ
ような重苦しさがある。だから秋水を振り払ったという事実を務めて忘れようとした。
 だが。
 武装錬金を使うが故の一種研ぎ澄まされた感覚が、異様な感覚を捉えた。
 それは地上から轟々と沈み、確かに向かってくる。今まで感じたコトもない現象。
 やがて。
 ヴィクトリアは息を潜めてその光景を見た。
 防護に徹すれば何者もの侵入を許さぬ、現に百年の長きにわたり母を外敵から完全守護
した地下深淵の避難豪。
 それがいま、強制的な力で開けられている。
 かつて千歳に開けられたコトはある。だがそれは千歳の探査能力を差し引いてもある程度
までは地下に彼女を容れるコトを良しとする母の意思あらばこそヴィクトリアも妥協した。
 だが今!
 完全に断固たる思いで閉じた筈の空間が、稲光と共に裂け──…
 秋水が現れた。よほど無理な手段を講じたらしい。侵入と共に彼の右頬が張り裂け、長い羽
毛のような血しぶきをあげたのだから。
「一体どうして……」
「君以外にも亜空間に介在できる武装錬金を操る者がいる」
 秋水の右手で鈍い金に光るのが『忍者刀』とはヴィクトリアには分からない。

 ……先ほど秋水のいた場所には。
 彼の名前を刺繍した紫の竹刀袋が無造作に打ち捨てられていた。
 秋水はそれをヴィクトリアが沈むなり抜きはらい、シークレットトレイルで地面を斬った。刀を
袋で覆っていたのは病院からの道すがら、人目をはばかればこそ。
 亜空間への退避を得意とするヴィクトリア。だが追跡はまるで不可能ではない。
「君以外にも亜空間に介在できる武装錬金を操る者がいる」
 秋水が語るようにシークレットトレイルを用いれば亜空間への没入は可能。が、その際は本
来なれば根来のDNAを含む物体以外の透過は決して許さない。
 では秋水は何故地下へ行けたか? その秘密は彼が身に纏う真新しい学生服にある。
 根来はシークレットトレイルを渡しながらいった。
「使え。貴殿の衣装はすでに対応済みだ」
 それで秋水は察した。根来が自らの着衣にそうしているように、学生服にも根来の毛髪が
編み込まれていると。
 この一時を見るにおそらく防人と根来、そして千歳は秋水の思惑を知っているようだがそれ
はまた別の話だ。
 ともかくも彼はシークレットトレイルで地下へ行った。到達の際に頬から血しぶきが走ったの
は追跡に気を取られたゆえの失策だろう。
 根来ならばこういう。「顔を学生服で包まぬからそうなる」と。
 だが秋水は良くも悪くも生来の気質ゆえに、一刻も早い追跡ばかりに気をとられ、余裕を持
てなかった。下手をすれば頭蓋だけ亜空間の拒絶で吹き飛んだかも知れぬのに。
 慄いたヴィクトリアだが、すぐに冷たい目線で断固たる抗議を送った。
「私が聴いているのは手段の話じゃないわ。理由。どうして私につきまとうの? あなたは戦士。
私はホムンクルス。そこまでして……つきまとう必要なんてないじゃない。何の得になるのよ」
 もはや悲鳴に近い声だ。
 秋水の頬から流れる血に眼が吸いつけられて、それに対して人間らしい感情が沸き起こるの
がどうしてもどうしても不可解で許しがたい。
「前にもいった」
 秋水は頬の血を拭おうともせず、答えた。
「君が人を殺すとはどうしても思えない。だからだ」

 時は前後する。秋水、そしてヴィクトリアが蔵に入るのを見た者たちがいる。
「むむ。これで計画の第一段階に突入!」
 小札は竹垣の影からひょいと出てツカツカと蔵へと近づいた。
「あとはひと段落つきしだい、不肖のマシンガンシャッフルで秋水どのを捉えるのみ!」
「なるほどね。総角クンからあなたが命じられているのはそれだったのね」
「ハイ! 正にその……きゅうっ!?」
 小札は咄嗟に身をよじった。同時にそこまでいた場所に何かが刺さり、慄然とした。
 矢だ。羽のない西洋の。
「……え、矢……! 矢ぁ!? というコトはココに来てまさかまさかのご登場っ!?」
「昨日の夜、念のため学校の屋上を御前様に監視させておいて正解だったわ。おかげであな
たちが何かを企んでるって分かったもの」
 小札は見た。霧の中、アーチェリーを左手に装備した麗らかな女性が歩いてくるのを。ついで
にその肩の上には二頭身で不格好な自動人形がふわふわ浮いているのも見た。
「よーロバ女! ……ってオマエ相変わらず貧相だな。桜花と同い年なのに」
 御前が気の毒そうにいい、桜花は無言で微笑した。テストで満点取った秀才が追試受ける
人間に「頑張ってね」と呼びかけるような余裕の笑みだ。
 すらりとした長身に豊かさを湛えながらもシルエットは細い桜花だ。モデル体型だ。
「う、うぅ。それは言わぬお約束……」
 まったく身長が低くて少年よりも未発達で足もマッチ棒みたいな小札はしゅんとした。
「なぜに同じ十八歳でありながらこうも格差あるのでしょーか……い、いやそれはさておき」
 小札は八メートルほど先にいる桜花にロッドをそろりと突き出した。
「戦闘回避の余地を求めていんたびゅー。物見遊山でありますか? あって欲しいのですが」
 桜花の眼光が俄かに鋭くなった。
「今頃秋水クンは大事な説得の真っ最中。うまくいくかはまだ分からないけど、少なくても終わっ
た後、あなたたちの目論みに利用されるのだけは許せない。秋水クンへの侮辱だから」
 脛に傷持つ小札だからぐうの音も出ない。説得のセッティングは彼女の中では一番平穏な
解決のために考えた手段だが、突き詰めれば下心ありきなのは否定できない。
「もっとも総角クンが企みを回避するというのなら私も退きますけど、それは無理でしょ?」
「う、正にその通り……ゆえに不肖も退けぬワケで……」
 桜花が矢を放つと同時に小札のマシンガンシャッフルが霧を散らした。


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