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第048話 「ありったけの思いを胸に灼熱の戦いの中へ」



「君にどうしても話すべきコトがある。寄宿舎に戻ったら……聞いて欲しい」
 アンダーグラウンドサーチライトのそれほど長くない梯子を上り地上に出ると、秋水はひどく
真剣な面持ちでまひろに囁いた。
 場所は蔵の中だろう。うっすらと明かりが差しこんでいるのは、上の方で不自然に開いた穴の
せいかも知れない。そんなコトを目を思わず秋水から逸らしたまひろは逃げるように思った。
「う、うん。寄宿舎に帰ったらね」
 もはや秋水の要件は見当がついている。カズキを刺したコトへの謝罪だ。だが、分かってい
ても秋水自身の口からそれを聞くのはいいようもなく恐ろしい。
 気まずい秋水とまひろから、ヴィクトリアにも大体の事情が伝わったらしい。彼女はいつもの
ような皮肉じみた表情で「ふーん」と薄く呟いて、蔵の扉の前へと歩み寄った。
(どうせ黙ってても何も進展しないし、歩けば二人とも勝手についてくるわよ)
 そして扉を開けて霧漂う外へ出たヴィクトリアは、柄にもなく茫然と立ちすくんだ。
 その様子にまひろも秋水も異変を察知したらしい。まず秋水がシークレットトレイルを握った
まま外へと躍り出て──…茫然と呟いた。
「姉さん……?」

 振り返った小札は棒立ちで秋水を見た。
 やがて状況を察した彼女は目を文字通りの点にして、口をもにゅもにゅとした波線に歪めた
まま蒼白たる面持ちで冷汗の粒を際限なくだらだら流した。
 ↓要するにこんな顔だ

  ・ ・u
 u 〜

「見、見つかったぁー!! コレを見られてはもはや平和的解決は不可能ォォォォォォオ!!
もはやかくなる仔細に相成った故は 三 十 六 計 逃げるに如かずゥ〜!!!!」
 小札の下半身が光ったとみるや幾何学的なロバ足となり、蔵なき庭へ向かって大爆走。
「ちょ、ちょっと待つんだ小札」
 流石の秋水も突然姉がやられているのを目撃し、小札にわーわーと騒がれては対応も遅れ
るというものだ。彼は意味もなく手を小札に伸ばしたまましばし固まり……
 俄かに小札は四本足で急ブレーキをかけるとUターンをして、ロッドを構えた。
「とーきにー! うーんめいはーこーころ、ためぇすかぜぇー!」
 するとどうであろう。マシンガンシャッフルの先端の宝石が緑の光線を放った。
「愛は総てを包む空! 回復モード、エバーグリーン!!」
 言葉とともに桜花の体がひどく優しい紺碧の光に覆われて、徐々に痛々しさが抜けていく。
「計略が破綻したいま、桜花どのを捨ておく意味はありませぬゆえ、絶……ダメェジの回復を
ば加療三日は有するまでに図らせて頂きます! 以上ッ!」
 早口でまくしたてるとまたも小札は庭に向かって逃げていく。
「待て」
「ひええ!!」
 小札が仰天し、まひろも仰天し、ヴィクトリアだけ「へぇ、なかなか素早いじゃない」と感心した。
 秋水は、庭と蔵の境界にまで逃走した小札に追いつき、すでにシークレットトレイルを振りか
ざしている。愛要のナンバーXXIII(23)の核鉄を持ちながらそうしているのは、発動の手間を
惜しんだからだろう。
「君は姉さんに何をした!」
 忍者刀が小札の前髪を掠り去り、毛を数本虚空に飛ばした。
「ひええ! ゆきがかり上仕方なくであります! 秋水どのがあちらのホムンクルスのお嬢さん
を説得されるのを邪魔させまいとこちらに赴かれた桜花どのですが、任務で控えてた不肖と
ぶつかり戦闘の末にやむなくああなり核鉄も回収された次第なのです〜!」
「姉さんが?」
 秋水が息を呑んだ瞬間である。まひろは桜花が力なくポケットから手を出すのを見た。
「……く……れる?」
 桜花の震える唇を凝視していたまひろは決然と彼女の手から何かを拾い上げ、秋水に向っ
て駆けた。ヴィクトリアは少し逡巡したが
(似た者同士であまり虫は好かなかったけど……さっきのはあなたのおかげでもあるから)
 自分の核鉄を桜花に当てた後、まひろに続いた。
(俺が彼女を説得できたのは……姉さんのお陰だったのか……?)
 秋水は桜花に何かをしてやれた記憶がない。守ろうとするたびにそれが果たせなかった。
(それなのに、姉さんは、姉さんは…………俺のために)
 ヴィクトリアの説得でようやく晴れた心がまた重くなり、秋水は小札を睨んだ。
「君が姉さんを倒し核鉄を奪った以上、俺は戦わざるを得ない! 悪いが応じてもらう!」
 シークレットトレイルは尺こそ短いが一応刀剣である。秋水は迷わず逆胴の構えを取り──…
「フ。やれやれ。試練を一つ越えて成長したかと思えばまだまだ未熟だな」
「!!」
 突如として足元に生じた穴に愕然とした。
「あーれーまー!!」
 一方小札は穴に落とされ、すでに地上に姿はない。
穴の縁にシークレットトレイルを横たえて辛うじて落下を免れながら、秋水は叫んだ。
「くっ! 総角か……!」
「おや、霧にアリスを疑えば、俺もまたこの地にいると分かりそうだが」
「……霧の目的は俺を千歳さんのヘルメスドライブが追尾した際、接触した小札やお前の部下
たち、そして何よりもお前自身が索敵対象になるのを免れるためだろう。チャフはレーダーを防
ぐ。いつかの廃墟で津村がお前と戦った時のように」
「ご明察。フ。だがそこまで見抜いていながら俺の存在を忘れるとはまだまだ甘い」
 駆け寄ったヴィクトリアは、どこからともなく響く余裕たっぷりの声に顔を歪めた。
(アンダーグラウンドサーチライト! 使っていたのはコイツだったの!?)
 そもそもヴィクトリアが寄宿舎を去るきっかけになったのは、斗貴子がヴィクトリアの内通を
疑ったからだ。戦闘中に敵がこの武装錬金を使って今のように地面に穴を開けたらしい。
(でも、どうして? 確か私の武装錬金を使うには……)
 直接見るか、ヴィクトリアのDNAを摂取するか。そんな必要があると千歳が話していた。
 しかしヴィクトリア自身、DNAを摂取された覚えはない。いつか寄宿舎の近くで総角に出逢い
香美に担がれて寄宿舎に突入したコトはあるが、その際に髪や唾液などを取られた記憶は一
切ない。嫌っているホムンクルス相手に警戒を解いて不審な行動を許すほどヴィクトリアは甘
くないのだ。ましてアンダーグラウンドサーチライトは見せたコトすらない。
(いつの間にあの男は……いえ、今はそんなコトより)
 実はヴィクトリアは核鉄を二つ持っている。自分の分と、今は亡き母の分と。
 自分のは先ほど桜花に当てた。
(相手がアンダーグラウンドサーチライトを使っているなら私にも──…)
「やめるんだ」
 形見の核鉄を手に武装錬金を発動しかけたヴィクトリアに、秋水の声がかかった。
「元々これは俺達戦士の戦い──…君が手出しする必要はない」
「何いってるのよ。私の武装錬金は刀一本じゃまず勝ち目はないわよ。おとなしく……」
 助けられなさい。そんな言葉を秋水は粛然と遮った。
「寄宿舎に帰るんだ。皆、君の帰りを待っている。俺も帰還を望んでいる。だから戻れ」
 澄んだ瞳が語っていた。ヴィクトリアには錬金術の闇と無関係でいて欲しいと。
「……分かったわよ」
 ヴィクトリアは核鉄をしまった。
「でも、さっさと戻ってきなさいよ。このまま居なくなられたら、勝ち逃げされたみたいで不愉快だから」
「分かっている。君を助ける約束も必ず果たす」
 忸怩たる表情でヴィクトリアは秋水を見た。
(何よ。人の都合に踏み入る癖に、自分の都合は守るなんて卑怯じゃない。私だって……)
 人間の思考というのは時として瞬間瞬間の感情のエネルギーが横車を押して、論理では思
いもつかない発想を呼び起こす。ヴィクトリアが秋水にいいようのない怒りを覚えた瞬間に体
感したのはその類型だろう。
 ずっと薄暗いまま使われていなかった知識。その点在が俄かに感情の電撃によって結ばれ
まったくそれまでなかった発想を生み出したコトにヴィクトリアは内心で驚いた。
 彼女は研究者のアレキサンドリアを母に持つ。思考形態は恐らく彼女譲りなのだろう。
(…………もし、コレを実現できたら?)
 溜飲を下げるコトも借りを返すコトも母の願いも果たせるかも知れない。二度と閉塞に悩む
コトもなく嫌悪の克服もできるだろう。その上、或いは本質的な解決も──…
 電撃に撃たれたように眼を見開くヴィクトリアに気付かぬまま、秋水はまひろに声をかけた。
「……すまない。君にいうべき事、後回しになってしまった」
 まひろは無理な微笑を浮かべながら「大丈夫。待つのは慣れてるから」と頷いて見せた。
「だが必ず戻ってくる。戻って必ず話す!」
 秋水を飲み込む穴はついに忍者刀の全長が及ばぬほど拡大し、彼を奈落へと突き落とした。
「あ、待って!」
 まひろはわたわたと何かを投げた。それは放物線を描きながら、落下途中の秋水に届いた。
 彼が辛うじて受けたそれは、野球のボールぐらいある白い物体。何かの紙を丸めた物らしい。
「桜花先輩が持ってたんだよ! きっと秋水先輩に何かを伝えたくて差し出したと思うから! 
だから、だからちゃんと読んであげてね! 私には分からないけど、きっと役立つ筈だから!!
先輩が何を話そうとしているかも分からないけど、待ってるから! ちゃんと帰ってきてね!!」
 眉をハの字にして今にも泣きそうになりながら、まひろは一生懸命吼えた。
 その頃すでに秋水は地下へと落下を始めていたが、声はちゃんと届いていた。
「感謝する」
 呟きながら紙を強く握りしめる秋水の体はそのまま果てしのない闇へと落ちていき──…
 
 蝶野邸の庭に忽然と開いた穴は描き消え、元の静かな光景を取り戻した。

「秋水先輩、大丈夫だよね?」
「なんとかするでしょうよ。知らないわよあんな奴」
 ヴィクトリアは拗ねたように呟くとまひろを促して桜花の傍に歩み寄った。
「さあ、この人連れて早く寄宿舎に戻るわよ」
「うん。ちーちんも待ってるしね」

 一体どれだけ地下を移動しただろう。
 秋水の足元に開いた穴は最初こそ垂直だったが、途中からやにわに緩やかな勾配へと変じ
あたかも救助袋のように左右に曲がりくねりながら秋水の長身を地下へ地下へと落とした。
 秋水の体感時間では十分ほどそうしていただろうか。
(ようやく着いたようだが……銀成市のどの辺りだろうか?)
 秋水がたどり着いたのは、ヴィクトリアを説得していた時と同じような地下道だ。
 六角形で煉瓦の敷き詰められた地下空間。ただし到る所に四角いカバーに覆われた蛍光灯
が設置されており、ひどく明るい。
 それに秋水が少し眩しそうな顔をすると、背後で扉の閉まる音がした。振り返れば下ってき
た通路が封鎖されている。
(前進しろという事か。だが……)
 幸い文字が読めるだけの明かりはある。秋水はさっそくまひろ経由で得た桜花のメモ書きを
開き、しわを伸ばしながら熟読した。
(…………そういうコトか。しかし姉さんを倒した方法は別にある筈)
  畳んだ紙を学生服のポケットに入れるついでに核鉄を引き出すと、ソードサムライXを発動。
 左手のシークレットトレイルと合わせるとひどく不格好だが、都合上仕方ない。
(シークレットトレイルと今の俺の服ならここを脱出する事も可能かも知れないが)
 なぜかそうせず、不格好な姿勢のまま周囲に気を配りつつ二百メートルほど歩いた。すると
六角形の扉があり、近づくと自動で小気味よい音を立てながら開いた。シェルターらしく三つに
分割された扉が六角形の縁へと沈んだのだ。
 同時に秋水は忍者刀を壁めがけて投げ捨て、一足飛びで弾かれる様に逆胴を放った。
「ひょえーっ! 開幕早々なんと物騒なー!!」
 秋水の鋭い視線の先には小札。さすがに入室早々秋水が飛びかかってくるとは思っていな
かったらしく、ロッドも構えずただ刃の到達を待つばかり。
 やがてソードサムライXを通して重々しい手ごたえが秋水を突き抜けた。
「重く、そして石火よりも激しい一撃だ。もっともソフトな扱いを好むのが小札なんだがなぁ」
「総角主税」
 いつの間にか金髪碧眼の美丈夫が小札の正面に現れ、逆胴を受け止めている。
 秋水がますます瞳を吊り上げたのもむべなるかな。総角は逆胴を片手で受け止めているのだ。
 掌はぴたりと刃に吸いついたきり何の破損も見せず、秋水がいかに押そうとビクともしない。
「フ。いかな秋水であれど刃筋が立たねば斬る事かなわない。日本刀という奴は単純だから
な。一定の角度でしか物を斬れない。それを踏まえれば受け止めるコトなど……容易い! 
出でよ! 右籠手(ライトガントレット)の武装錬金! ピーキーガリバー!!」
 逆胴を受け止める手が俄かに肥大化すると、刃を引いた秋水目がけて重厚な拳圧を見舞っ
た。辛うじて避けた秋水ではあるが、それきり攻め手を欠いたのか下段に構えたまま硬直。
「ようこそ。俺達の棲家に。ようこそ。俺の形成した地下空間に」
 総角は恭しく礼をし、小札もつられてぎこちなく同じポーズを取った。
「不肖がかつて紙にてお知らせしたコト……覚えておられますか」
「ああ。この状況は逆向との戦いで君が渡した紙の内容通りだ。

助力を得る代わりに、俺が、誰にも告げず、お前たちの棲家へ出頭する……

紆余曲折を経たが一応は果たした。だが!」
 総角はくつくつと笑った。
「どうせお前のコトだ。小札に勧誘された時点で俺達全員を倒そうとでも考えたのだろう?」
「……戦団に背く行動なのは元より承知の上。だがお前たちを倒すにはコレしかない」
 総角は困ったように頬を掻き、「いいのか?」と反問した。

 総角率いるザ・ブレーメンタウンミュージシャンズのメンバーは六人。

 総角主税。
 小札  零。
 鳩尾無銘。
 栴檀貴信。
 栴檀香美。
 鐶   光。

「未だ戦士に一人として敗れていない俺たちが、総てこの地下に居る」
 つまり、と総角は唇を歪めた。

「六対一だ」

 粛然と表情を崩さぬ秋水のこめかみから微量の汗が頬へと流れ落ちた。
「不利は目に見えている。確実性を期すなら、他の戦士を呼ぶべきだが?」
「理想をいえばお前だけを倒すべきだが、例え全員が一度に来ようと受けて立つ。どの道、い
ま戦える戦士は俺しかいない。津村達の回復を待っていれば、お前達を取り逃す恐れがある」
 そうだな、と総角が微苦笑すると、手からピーキーガリバーが消滅した。
「いいだろう。ならば俺たちも応じよう。まずは!」
 指をはじく音と共に、総角はおろか小札のはるか背後から、威勢のいい声が二つ響いた。
「つーワケでまずはあたしらの出番! カゼも手のケガもよーやく治ったし、あやちゃんが回復
するまでの時間かせぎじゃん!!」
『はーっはっはっは! 勇気はあるか希望はあるか! 今がその時だッ!!』
 小札を飛び越えニューっと銀色の影が秋水めがけて疾駆した!
 それを右切上で弾いた秋水、迷うことなく跳躍し頭上の影へと鋭い斬撃を放った。
「さけぶサイレン、いざ出動じゃんー♪ あーくのにおーいをのが、しはーしなーい♪」
 空中で数合の火花が散ったとみるや、影と秋水は共に壁へと飛びのき全く同時に蹴りあげ
て反動利しつつ再肉薄! だが秋水の斬撃が命中せんと瞬間、影はあろうコトか中空で更に
垂直へと伸びあがり、その半透明の残像をソードサムライXがむなしく通り過ぎた。
(鎖分銅を天井に刺したか! だが)
 緩やかに落下しながら秋水は天井を睨んだ。影の右手から銀色の光が伸び、天井にめり
込んでいる。
『はーはっはっは!! ハイテンションワイヤーにはこういう使い方もあるんだ!』
「予習通り……」
『何!?』
「うへ! ご主人ご主人、あたしなんかぐろいコトになってるじゃん!」
 影の生意気そうな瞳が唖然と肘を見た。かかるべき体重がそこにない! あるのは空白の
み。すなわち、影の肘はいつの間にか切断されていた! 影が驚愕に声を立てる暇もあらば
こそ、手をぶらりと天井に吊るす銀の鎖の根本から、金の刃が現出し影を掠めて、無茶苦茶な
軌道で狙い撃ちを始めた。
「うわ、いたっ、いた! しゃーッ! なんかブンブンブンブンうっとうしいじゃんあんたら!!」
 影は片手を伸ばしてはたこうとするがどうも空をピョコピョコ裂くだけで当たらない。
「真・鶉隠れ。先ほど壁を蹴った時にシークレットトレイルを引き抜いておいた」
(ほう。確かに生体電流さえ用いれば使える技だが、よく発想したな)
 そういえば、と総角はむかし廃墟で秋水にこの技を撃ったのを思い出した。
 おそらくその経験と、シークレットトレイルへの知識から真・鶉隠れを習得したであろう秋水は
すでに落下途中の影目がけて飛翔している。果敢という他ない。剣風乱刃は影のみらず秋水
をもびょうびょうとかすり去り、髪をうっすら舞い散らせた。だが構わず彼は逆胴を放ち──…。
 予想外の感触に顔をゆがめた。
 肉球。分類すればその形状の幾何学的な部品(パーツ)が刃を止めている!
「ふっふーん! あたしのにくきゅーニャ、なーんも通じないし! って、うあう!?」
「はあああああああっ!!!!!
 裂帛の気合一哮! 秋水は下半身のバネ得られぬ空中でありながら、肉球ごと相手を地面
に叩きつけ、しかも辺りを飛んでいたシークレットトレイルをむんずと掴んで投擲した上に、体重
の乗った唐竹割で追い打ちをかけた。が。
『流星群よ!! 百撃を裂けぇぇぇぇぇぇええええ!!!!』
 対空砲火とばかり地面から光のつぶてが襲う。シークレットトレイルはそれに吹き飛ばされ
床に転がった。その乾いた音に促される様に秋水はソードサムライXの刀身を正面にかざし、
光のつぶてを吸収。そのまま着地した。
『はーっはっは! やはり僕の流星群は吸収されるらしいな! 威力最小で良かったぞ!』
「んーにゅ。どーも強そうじゃん。ま、あやちゃんのために時間かせげるだけかせぐけどさー」
 影はすっくと立ち上がると、頭からネコミミを生やしてしっぽをくねくねさせた。
 実にふくよかな体つきの少女だ。白いタンクトップから小麦色の谷間を覗かせ、血色のいい
太もものほとんど付け根でビリビリに切り裂いたカットオフジーンズがいかにも野性味を帯び
ている。むちむちと盛り上がった腰部の後ろからはチェーンアクセサリーをじゃらじゃらぶら下
げていてひどくやかましい。
 やかましいといえば、シャギーで限界まで尖らせた雑草のようなロングヘアーもそうである。
 茶色がかったそれにはうぐいす色のメッシュの線がポツポツ入っており、アーモンド形の瞳
と相まって実に派手で強気な印象を振り撒いている。
 そんな少女が八重歯を覗かせながら叫んだ。
「つーワケでまずあんたの相手をするのは、あたし栴檀香美と!!」
『この僕、栴檀貴信だ!!』

「さて六体一。受けた以上は俺の部下全員に勝つ事だな。当然最後は
俺。頑張って昇ってこい。期待しているぞ」

 総角、そして小札の影は、すでに消えていた。


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