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第053話 「避けられない運命(さだめ)の渦の中 其の伍」



 壁に接触していた星型分銅が勢いよく貴信に跳ね返り、地面へダラリと垂れた。
「筋からいえば貴方は先を急ぎ、僕たちは時間を稼ぐという相反する立場!! が、もりもり
氏に課せられたノルマ自体はすでに果たした!! 一時間!! 僕と香美で一時間!! 
それを超えればあとは好きに攻めろと達しがあった!! よって!!」
 貴信の手から垂れる鎖に、まばゆい金色の光がバチバチと伝播し始めた。
「ココは男らしく一撃勝負! 最大の技をブツける!! 当てれば僕の勝ち! 当たらなけれ
ば貴方の勝ちだ!!」
 光は鎖を伝い落ち、地面に横倒れる分銅の断面からみるみると溢れだした。
 その様子を秋水は騒然と見た。
 光が風船だとすれば星型分銅は空気入れの口であり、鎖はチューブであろうか。
 形を持った光がたちどころに巨大な球体へと成長を遂げた。直径は五メートルはある。
「壁から吸収できるだけ吸収した総てのエネルギーを凝集したこの光球! いつかの新人戦
士に浴びせた流星群などは比較にならない威力だ! 見ろ!!」
 貴信は自らの髪を数本千切ると光球に放り込んだ。すると髪は少しくすぶったあと白煙を発し、
もつれ合いながら消滅していった。
「当たりさえすればこうなる!! もっともブツける以上、接触は長くて二〜三秒!! 全身に
第二度の火傷を負い戦闘不能にはなるが死にはしない!! とはいえ貴方の刀とて簡単に
は吸収できないだろう!!」
 いかなる工夫があるかは分からないが、体に取り込んだエネルギーを練り込み再度放出す
るには相当の集中を要したと見えて、貴信の顔は汗みずくになっている。息も少々上がってい
るが、そちらはすぐさまいつもの大声にかき消されて分からなくなった。
「なぜならばこの光球の直径はおおよそ五メートル!! 対する貴方の刀は一メートルもない!
斬りながらエネルギーを吸収したとしても、その斬撃が終わる頃には無事な部分が貴方を襲
う!!」
「予想は正しいが、しかし俺のソードサムライXは触れさえすれば如何なるエネルギーも吸収
する武装錬金。対象が巨大だというならこの場を動かず総て防ぐまで」
 秋水が横につかんだ愛刀を顎の前にかざしながらわざわざ説明したのは、貴信に対する一
種の武士道精神かも知れない。彼の技を事前に防がないのも或いはそうだろう。
「フハハ!! 僕とて貴方の立場ならばそうする!! だが!!」
 巨大な光球の傍らの貴信に明確な変化が起こった。
 まず彼の首が百八十度回転し、髪が伸びて胸が膨らみ四肢がしなやかさを帯び、腹や臀部
がにわかに女性らしい丸みを帯びたのだ。そして。
「う、うにゃ? なんであたしがまた正面に?」
 香美は目をぱちくりとしながらネコ耳をひょこひょこさせ、落ち着きなく辺りを見回した。
『僕は貴方が光球を受け止めている間に、光球をもう一つ撃ち放つ!』
「な、何……?」
 秋水が思わず飲んだのは、その戦法ではなく予告にである。或いは不意さえつけば秋水を
倒せるかも知れないのに、貴信はむざむざその可能性を捨てているのだ。
『それも正面からではなく、香美の機動力で貴方の死角に回り込み、本命となる二発目を放た
せてもらう!! むろんこちらは外部からのエネルギーではなく、僕たちの全精力を込めて撃つ
から当てれば僕の勝ち! 当たらなければ貴方の勝ちだ!!』
 ソードサムライXの切っ先が弧を描きながら秋水の足元にピタリと止まった。
「なるほど。戦法も予告も君らしいな」
 構えを取った秋水は、この局面でなお微笑を浮かべた自分に内心驚いた。
 一体その心情は何と形容するべきか。
 ただただ桜花を守るために目を濁らせ剣を振るっていた頃とは違う感情。
 相手を見て相手を認め、ひたすら純粋に技量だけを出し合える心地よさというべきか。
(勝負にはこういう物もあるのか)
 もしかすると初めて直面するかも知れない戦いの醍醐味に、安定しながらも張り詰めた緊張
感が秋水の隅々まで広がっていく
『やはり男は最大の技に勝負を賭すべきだからな!! というワケだ香美!! 死角を探すの
はお前に任せるぞ!!』
「う、うん。あいてに見えんばしょ見つけたり動いたりするぐらいならあたしにもできるし」
 そして……と、貴信は秋水に声を向けた。
『流石の貴方とて刀一本で別方向からやってくる二つの巨大な光球を、同時かつ瞬時に打ち
消すコトはできないだろう!』
「……いや、方法ならある」
 秋水は壁に歩み寄ると、刀を電流の坩堝へ突き立てた。
「どこまでも正々堂々に拘る君に敬意を表し、俺も手の内を明かそう」
 そうでもせねば勝負の根底に流れるきらびやかな物を踏みにじるような気がして、秋水はとく
とくと自身の武装錬金の特性を説明し始めた。
「ソードサムライXは刀身から吸収したエネルギーを下緒経由で飾り輪に蓄積し、時間差をつ
けて放出する事ができる」
 果たして言葉通り、電流はみるみると刀身に吸収され、下緒を通り……
『そしてそれを以て、二発目の光球の相殺に当てる、か!! だが果たしてできるのか!!?』
「六対一という戦いに身を投じる事を決意した時から、不利は百も承知だ」
 飾り輪がその限界までエネルギーを吸収したのを確認すると、秋水は何かに思いを馳せる
ように目を閉じ、刀を引き抜いた。
「だが少なくても俺の恩人ならば、万人から無謀といわれようとこうするだろう。回避は元より
選ばない。君の技を真っ向から受け止め、そして破る……!!」
 澄んだ瞳をすくりと開き距離を取る秋水に、貴信の声がかかった。
『貴方ほどの男にそうまでいわす恩人、やはりいつか会ってみたいな』
 秋水にその顔は見えないが、静かな声の調子からは笑みを浮かべているのが容易に推察
できた。
「いまはあいにく地上にいないが必ず戻ってくる。君も生きてさえいればいつかは会える筈だ。
もしかすると君たちの直面している問題さえ解決してくれるかも知れない」
 秋水もふと微笑を湛え、それから粛然と表情を引き締めた。

「行くぞ」
『……勝負は一瞬ッ! 全力は尽くすが予告はしたぞ!! 二発目は不意打ちじゃない!』
「分かっている」
「う、あたしは入りこめないけど白ネコぐらいは見るじゃん」

 秋水は正眼、香美は無造作に鎖を垂らしたまましばし睨み合い──…

 やがて誰からともなく、声が漏れた。

「勝負!!」

『超新星よ! 閃光に爆ぜろ!』
 口火を切ったのは貴信だ。彼は鎖分銅を振り抜くとその先端についていた光球を秋水目が
けて傲然と吹き飛ばした。エネルギーの塊は自身の速度で歪むほどの初速を帯び、床板を
バラバラとめくり上げるとそこから一気に秋水の目前まで迫っていた。
「え、えーと、かーみーのすむ星じゃん! あ、ちがった」
(まずは一つ目!!)
 秋水は光球に右肩上がりの斜線をつけるような形で剣の腹をブチ当てると、左手で切っ先を
押さえて迫りくる光球の威力に耐えた。
 巨大なそれはまるで機関車か何かのような恐ろしい速度だ。だがソードサムライXの刀身は
確実にエネルギーを吸収していく。黒い学生服は飽和状態の飾り輪からバチバチと迸る極光
に照らされ五色にも七色にも激しく明滅しつつ、緩やかにだがその座標を後方へずらされて
行く……
「押され……ぐっ……!!」
 光球はむしろ縮小するたびにその速度を増しているようだった。
 腕のみならず上体全てを使い押し返さんとする秋水だが、足元では草履の裏を思わせる灰色
の轍が二本、ズリズリと延長していく。
『そして二撃目ええええええええ!!!』
「お!! 思いだしたコレ、かーみのすーむ星じゃーん!!」
 声がどこからともなく響いたのと、秋水が意を決して眼前の光球に斬り込んだのは奇しくも同
時であった。
 剣技とは時に極限状況で大きく伸びるものらしい。いまだ直径二メートル以上あろうかという
光球が遮二無二にまろびつつ踏み込んだ秋水に見事両断されたのはソードサムライXのエネ
ルギー吸収特性を差し引いても奇跡としかいいようがない。
 だが秋水が斬り開いた道を通り抜け貴信たちの姿を求めた瞬間、奇跡を差し引いて余りある
凶事が注いだ。
「最大の死角……!!」
 呻くように叫んだ秋水の瞳がホワイトアウトしたのは……
 真正面から第二の光球が到来し、奇跡の代償たる硬直時間ごと彼を呑みこんでいたからだ!
『ブラフのようで悪いが、しかし結局は真正面から撃つコトしか浮かばなかった!!』
 先ほど移動すると宣言した貴信たちは……
 一歩たりとも動かず元の位置にいた!
「だってさぁ、ふたりとも頑張ってたワケだし、いまさら不意打ちとか悪いじゃん……」
 香美は非常に悩ましい顔つきで光球を眺めたが、しかし彼女の選択は正解といえなくもない。
(皮肉だな! 動かなかったからこそ二撃目が一撃目の影に完全に隠され、後者を斬り捨てた
瞬間に命中するとは……! それにもし飛べば天井の片隅の……いや。もう済んだコトだ!)
 香美の髪の中で貴信は瞑目した。
『とにかく、コレで決ちゃ……』
「ちょ!! ご主人!!
 何事かを悟った香美の言葉に覆いかぶさるように、裂帛の気合いが響いた!!
「はああああああッ!!!」
 気合の出所は光球の中だ。あろうコトかその声の上下につられ光球の表面でプロミネンス
がいくつも吹きあがり、特大の光球を震動させ、
『これはッ!!』
「あ!! あん中ですごいバチバチが出ながら入ってるじゃん!!!」
 驚愕の香美が指をさした瞬間、光球は倍以上に膨れ上がった。
『膨れ……!? まさか、彼は……!! 彼はあああああああ!!』
「例え呑まれようとそこで終わりではない!! 終わりにはさせない!!」
 光球の一面が下から上へばくりと斬り裂かれ、秋水が弾丸のごとく香美に殺到!!
 彼女は眼を見開き手を動かそうとしたが、途中で静かに目を閉じその時を待った。
 そして剣が閃いた次の瞬間……
 秋水は見た。
 咄嗟に香美から貴信に変貌した敵の姿を。
 奇しくも香美と同じく──とはいえ軌道自体は逆だが──右肩から左腰部を斬り下げられな
がら、ニヤリと笑う貴信の顔を。

 斬り込んだ秋水が勢い余って十数歩先まで滑って行ったため、彼と貴信の間にはそれだけ
の距離がある。
 そのまま互いに互いの背を向けたまま、二人はしばし沈黙し……

「……超新星の中に空洞を作ったようだな貴方は」
あちこちに火傷の痕が生々しい秋水は、「ああ」とだけ言葉少なげに頷いた。
「呑まれた瞬間……俺は丹田の前に飾り輪をかざし、あらかじめ蓄えておいたエネルギーを
一気に総て放出した」
「もちろん放出したエネルギーにも破壊力が伴っているから無傷とはいかなったようだが……
僕の最大の技にただ呑まれるよりはマシ。というコト……だな」
「そう考えた結果、一瞬だけ周囲のエネルギーを相殺するコトができた」
「フハハ!! 相殺ではないぞ!!」
「?」
「エネルギーのうち、幾分かは周囲に押しやられ! ともすれば光球を倍以上に見せていた!
物理的な説明など僕にはできないが!! 要するに僕のエネルギーを貴方の気迫が上回っ
ていたというコトだろうな!!」
 威勢のいい意見に、しかし生真面目な青年は戸惑いを率直に述べた。
「いや、俺はただ空洞の中で歩を進め、薄くなった光の壁を斬るのに精いっぱいだった。とて
も君を上回ったとは……」
「ハハハハハハハ!!」
 負けたのに哄笑を上げた貴信を秋水は不思議そうに振り返った。
「僕は先ほど、ちゃんといった筈だ!

 正々堂々とエネルギーを迸らせたからとて、すぐさま花開かぬ時もある! そんな時は、費
やしたエネルギーが地中で芽を生やしていると考えればいい!! いずれは日の目を見て想
像よりも綺麗な花を咲かすコトもあるだろう! 

となあ!! よって配慮は無用ッ! 男ならば勝った瞬間の心情ぐらい堂々と述べるべきだ!!
……何にしろお見事!! おっと、次の舞台には忘れずこの武器を持って行け!!」
 貴信の鎖が部屋の隅に転がっているシークレットトレイルに巻きつき、秋水に投げた。 
「一つ、教えてほしい」
 秋水は忍者刀を受け取りながら、深く息をつきつつ貴信に聞いた。
「技を破られたからといって、君の脚力なら先ほどの一撃は避けれた筈。現に君は栴檀香美
の体と交代するだけの時間は持っていた。にも関わらずわざわざ傷を受けたのは得策とはい
いがたい。なのになぜ敢えて?」
「フハハ! それをいうなら入れ替わりに気づくと同時に章印を外した貴方も相当下策だがな!
得策をいうならば、敵のメンバーなど斃せるうちに斃すべきだ!!」
 貴信は自身の胸を見た。深い傷が刻みこまれているが、人型ホムンクルスの弱点である章
印は見事に外れている。香美の姿なら章印は頭部にあるのでそういう配慮はいらない。
 しかし秋水は貴信の姿を認めていながら、章印を外した。
「何故!?」
「そ、それは、もし君が生きていれば彼に会い、抱えた問題を解決できるかも知れないからだ。
君はホムンクルスだが決して悪じゃない。ならばここで斃す必要はない。そう……思った」
 複雑な表情の秋水に対し貴信は多弁だ。
「配慮感謝する! さて質問の答えだが、強いていうなら……そうだな。

避けられない運命(さだめ)の渦の中、傷を負っても探し続ける。誰が為に何をするのか。

だ! 香美はネコの頃から病弱な女のコ! 一日に二つも刀傷を与えるのは忍びないッ!!」
『ご主人……』
 香美の声がさめざめと泣いて、手を動かして貴信をよしよしと撫でた。
「今の戦いはそういう余地が介在できる戦いであって、決して殺し合いではない……」
 刀を佩くように持ちながら秋水は貴信を振り返った。
「つまり、君もそう思ったという事か」」
「ああ! だから勝負を賭けた一撃を外した以上、相手のそれを浴びるのは当然! でなくば!」
 悪党のようにギョロギョロと瞳を剥きながら貴信は振り返り、
「貴方の培った技術、そして内包する透き通ったエネルギーに対して無礼だろう!?」
 ロシアの殺人鬼のような怖い笑みを浮かべた。ちょっと秋水は引きかけた。
(もしかすると彼が他人を苦手なのは、この形相を恐れられているからだろうか?)
 考えていると、その背後で扉が開く音がした。
「約束通り、ココは通そう。あの新人戦士の核鉄も返す! そして!!」
 同時に貴信は二つの核鉄と、一つの四角い金属片を投げた。
「僕の核鉄と割符……しっかと身に持ち突き進め!!」
「分かった」
 秋水が全てを受け止めたのを確認すると貴信は正面を向き、秋水に後姿を見せたまま右手
を横に突き出し親指を立てた。
「貴方に真ッ向から倒された者として、善戦を祈る! だが次の鳩尾は甘くない!」
『そゆコトじゃん。気をつけろ気をつけろ気をつけろーきみはねらわれてーいるぅー♪』
 二個の人格を有した一つの肉体は声を大きく張り上げたままゆっくりと前のめりに倒れだし……
「さらばだッ!!」
『あんた悪いやつじゃないし頑張るじゃん! えと……はやさか、しゅうすい!』
 最後の声とともに地面に落ちた。
「……気遣い、感謝する。難しい事だが、次に君たちと出会う時は敵じゃない事を心から祈る」
 秋水は柔らかい微笑を浮かべてから踵を返すと、次の部屋に向かって歩き出した。
 即ち。

 栴檀香美。
 栴檀貴信。

 敗北。
(残りは四名。先を急ごう)
 秋水が薄暗い通路を走りだしたその五分後──…

「すまないな香美!! 善戦及ばず負け、お前の体を傷つけた!!」
『まーまー、痛いのははんぶんこだしいいじゃん。さすがご主人!!』
 貴信は大の字になりながら、しかし顔だけは突っ伏していた。
『でもさでもさご主人、ひかりふくちょーのコトいわなくてよかったの?』
 香美はそこで言葉を切り、意外な二の句を継いだ。
『”とくいたいしつ”だっけ? アレ知らなかったら白ネコさ、絶対負けるじゃん。うん』
 顔を突っ伏す貴信はしばし黙った。
 まるで香美の言葉を否定する材料を持っていないのを示すような調子である。
 やがて彼は乾いた唇を震わせながらぎこちなく笑った。
「ふはははは!! 流石にもりもり氏渾身の機密事項は漏らせないな!! それに……彼女
の恐るべき特異体質をバラしていれば僕とお前は殺されていただろう!!」
『どゆこと?』
「鈍いな香美!! 髪の隙間から天井の右隅をよーく見てみろ! お前曰くの”ひかりふくちょー”
は僕が超新星を放つ直前からそこにいる!! 余計なコトをいえば、真っ先に僕たちを葬ってい
ただろうな!!」
「い!?」
 香美がいわれた通りにするより早く、彼女の顔のすぐ横に黒い影が舞い降りた。
「見つかりましたか……さすがは…………貴信さん」
 ボソボソした口調の影に、香美は嫌そうな声を漏らした。
『うげ、いたの? つかなによそのカッコ? いつもと違うし、なんか全身まっくろだし』
「そろそろ……板についてきました…………でも見せられません……この前、月の人に見られ
ましたし……」
 指摘通り影──すなわち鐶光の全身は影に包まれている。
 地下といえどこの部屋の天井には照明がある。壁には電流がある。光源に不足はない。
 にも関わらず鐶だけは欝蒼と闇に包まれ、顔すら見えないのである。
 見えるとすれば体のラインだけである。それも華奢な体が何やらロングスカートじみた物を
履いているとまでは分かるが後はもう髪型すらも分からないほど、彼女は闇を纏っている。
「ウソはつかないが豆知識!! カワセミやハチドリ、マガモといった金属光沢のある鳥は、
必ず羽毛にケラチン質の複雑な構造を持っており、光を吸収・反射するコトで鮮やかな色合
いを演出している! そう、羽毛に青い色素が沈着している鳥などは実はいない!! 総て
光の作用だ! ちなみにオウムは黄色い羽毛の上で青い光が反射しているので緑色に見え
るという話だ!! これを構造色といい、貴方の全身が影に覆われているのもその応用!
そしてこれこそが『特異体質』の一端!! しかし全容ではない!!」
「はい……ところで、約束を……果たしに来ました。いい……ですね?」
「もちろん!!」
『んー、ぎゃーするようで嫌だけど……約束だししゃーないじゃん』
 言葉が終わるか終らぬかのうちに、鐶の握ったキドニーダガーが貴信の首にふかぶかと突
き刺さり、やがて彼は粘液に塗れる衣服の上でホムンクルス幼体へと姿を変えた。

「リーダーからの伝達事項その四。敗北者には刃を。私の回答は……了解」
 
 やがて貴信と香美の居た部屋は誰もいなくなり、緩やかな崩壊を始めた。


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