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ちょっとした考察。年取って自分の限界を色々知ると、ノヴァの
ような非超人キャラが頑張るところにウルリと来るのです。



29巻 「もうひとりの勇者」より

あらすじ
超魔ゾンビの猛攻を食い止めるべく生命の剣を発動するノヴァ。
が、ロン・ベルクは決定打になりえないと見抜き、即座に制止した。

「いいんです。それでも」

ノヴァは語る。
消して折れないその剣で命燃え尽きるまでたたき続け、わずかな傷の一つでも残せればそ
れでいい、と。

「それはまがりなりにもかつて”勇者”を名乗った事のある……このボクの務めなんです!!」

前日。ダイの訓練相手をかってでたノヴァは、力量の差を思い知り、以前の非礼を詫びていた。
されどダイはむしろ恐縮し、こういった。

「一番強いやつ一人だけが、本物の勇者だなんて考え方おかしいよ」

突拍子もない意見にノヴァは困惑し、問われたダイもしばらく考え込んだ末に結論づけた。
力の差があっても人々が勇者と呼んでくれるのなら、誰かが救われているのなら。
ダイも勇者で、ノヴァも勇者。

「どっちも勇者なんだよ」

あっけらかんと笑うダイに、ノヴァは新しい気迫と自身が沸くのを感じ、そして気付いた。

「…ボクは…あの時はじめて知った!! 真の勇者とは自らよりもむしろ、みんなに勇気を
沸きおこさせてくれる者なんだ、と……!」

「ボクが生命尽きて倒れても……!! ボクがつけたわずかな傷跡に後から攻めていける
だけの勇気を…! この場のみんなに残してあげられれば……!!」

「…ダイほどではなくても…ボクも勇者の代わりができる……!!!」

自分勝手だった息子の成長にバウスンが涙ぐむ中、ノヴァは超魔ゾンビめがけて特攻し。
生命の剣は立ちふさがったロン・ベルクの肩口を貫いていた。
愕然とし剣を離すノヴァにロン・ベルクは敬意を表し、生涯をかけた究極の兵器を召還する。


勇者の肩書きに甘んじていたノヴァが、その本質に初めて目を向け、決断した瞬間。
彼はダイと違って生来の気質において他者に勇気を巻き起こせる者ではない。
むしろ自己中心的な人物として存在し、はなはだ他者を思いやる事薄かった。
そんな彼が自らの背負った役割を果たすべく、生命の剣を発現する。
他者に勇気を与えるべく生命を燃やすのもまた、勇気といえる筈。

武器を他者に与えるという点でロン・ベルクはダイに近い。ノヴァにも。
けれどもロン・ベルクもかつてのノヴァ同様、自分が第一だった。
自分が全力で振るえる武器を目指して鍛冶屋になり、その中で使い手のなさに
絶望して歩みを止めていた。
そんな彼から見て、他者に武器を与えようとするノヴァはどうだろう。

かつてマトリフはいっていた。

勇者にも一つだけ、他の奴に真似できない最強の武器がある。
決まってんだろ。
勇者の武器は”勇気”だよ。(8巻P141より)

そしてロンベルクは望んでいた。

…昔、人と武器はひとつだった…
人は強き武器に恥じぬよう努力した。
強き者がいるからこそ、武器も日々進歩した。
今はどっちもクズだ…!

…金などいらん。

おまえが今一度、最強の人間と最強の武器が合わさった姿を見せてくれるなら
それでいい…!!(15巻P111−112より)

この2つの発言を突き合わせると、生命の剣を発動したノヴァはロン・ベルクの理想にか
なり近かった。

人(ノヴァ)は強き武器(ダイのもたらす勇気)に恥じぬよう努力した。
強き者(ダイ)がいるからこそ、武器(ノヴァの勇気)も日々進歩した(正確には成長を遂げた)。

だからこそロン・ベルクは感銘し、星皇剣を使う覚悟をしたのではないだろうか。

「もうひとりの勇者」を読むたび、そう思う。



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