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【ヘソ出し】武装錬金萌えスレpart37【お姉さん】より

ハロウィン

(何もない日常ってのもそれはそれで。秋水主役だと筆が進みます。
この頃から中編をちょくちょく投下するようになったようで)



早坂秋水がロッテリやでの12時間勤務を終えて帰ってくると家は真っ暗だった。
桜花も家計を支えるために繁華街で美人局を始めたから不思議はない。
しかしすぐに別の目的で彼女が出払っていると知れた。
薄暗いダイニングルームの机の上に、
『今日はハロウィンだから出かけるわ。秋水クンも参加したかったらコレ着て街を徘徊よ!』
という書置きと、狼男の着ぐるみが置いてあったからだ。
「ハロウィンってなんだ?」
人差し指を額に当てて考える。瞑目すると疲労が眠気に近づいてやや心地よい。
「ハロウィン…ハロウィン…? 狼男の着ぐるみと何の関係があるんだ姉さん」
ドンドン!と玄関先がノックされたのは、その時だった。
時刻を見れば、午後8時。新聞の集金では無さそうだ。
桜花秋水が愛飲している「アバンストラッシュ黒酢」の集金は、先月口座振替にしたからもっと違う。
端整な顔も訝しげに「どなたですか?」と聞くと、聞き覚えのある明るい声が返事をした
「とりっこあとりーと! お菓子をくれないとイタズラするよ!」
「具体的には柊の枝に鰯の頭をつけたモノを玄関先に置き去りにしちゃいますよ!」
「それイタズラじゃないし、そもそも節分の風習だよちーちん! ええとですね秋水先輩、ハロウィンなので──…」
顔見知りの後輩たちが来たらしい。
よく分からないが、そこは生真面目でアクが薄くて使い辛いと評判の秋水。
部屋にあったうまい棒をかき集め、ドアを開けた。そして混乱した。
目玉を模した風船と、メガネのドラキュラとおさげのミイラがカボチャの提灯を持って立っていたのだ。
ロッテリやの混雑する時間を一人で切り盛りした疲労も手伝い、おかしなコトを聞いた。
「ええと──それはバックベアード?」
「さすが秋水先輩! その通り!」
「バックベアードと言うのは西洋妖怪の首領で」
「つまりはとりっこあとりーと! うまい棒をもらってきますねー」
そして後輩たちは口々にありがとうございまーすと言って、部屋の前から去っていった。
秋水は困った。ハロウィンとは何か、ますます分からない。

そこに死神とフランケンシュタインがやってきた。
「DEAD OR ALIVE! 菓子をよこさないとブチ撒けるぞ」
「斗貴子さん、英語間違ってる! 秋水先輩、TRICK OR TREAT!」
「…と、とりっこあとりーと。…な、なあ武藤、ハロウィンって何だ?」
カズキは一瞬きょとんとしたが、すぐにハロウィンについて教えてくれた。
「なるほど。つまりは仮装して街を練り歩いて菓子を貰う行事か」
疑問が氷解する秋水の鼻先に、冷たく光る死神の鎌が突きつけられた。
「で、よこすのかよこさないのか。私としてはどっちでもいいがさっさとカズキと二人きりで歩かせろ」
「…キミにはどんな行事も意味がないらしいな。とりあえずチロルチョコでいいか? 家計が苦しいんだ」
「じゃあ千歳さんから貰ったパンプキンケーキと交換というコトで。それでは良いとりっこあとりーとを」
フランケンシュタインは太陽の様に笑い、去っていった。

「と、とりっこあ…いいです。本当はお菓子より斗貴子先輩の愛が欲しいんだぁーっ!」
「蝶・トリックオアトリート! さあ俺に菓子をよこせ!」
その後、半漁人や蝶々が来た。10円のガムをやると、二人とも喜んだ。

「ハロウィン、か… 妙な行事もあるもんだ」
めいめいがめいめいの思う姿で世界の中を歩いている。秋水の頬はほころぶ。
「だが姉さんはどこへ行ったんだ?」
「帰ったぜー 生真面目でアクが薄いがたった一人の愛すべきマイブラザーよぉ〜」
「ただいま。秋水クンにお土産よ!」
魔女姿の姉がお菓子を抱えきれないほど持って帰ってきた。
「おかえり。武藤がパンプキンケーキをくれたよ姉さん」
「あらー」
驚く魔女姿の姉を見ながら、開いた世界も悪くないと思う秋水だった。



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