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【手乗り】武装錬金萌えスレPart41【チャイナ】より

バーニングアボガド

暮れの銀成郵便局を受けたSSを受けたSS)



>>602続き
まひろは、和菓子の店(かみゅとかそんな名前)で椅子に腰掛けるなり、指をパチンと鳴らした。
「何をしているんだ」
「店員さんを呼んでいるの! エイ!」
「…コレだ」
軽い頭痛を覚えながら、机上のボタンを押した。
この店の従業員の間には、ひとたびボタンを押されたら
例え親の葬儀の真っ最中でも駆けつけて客に愛想良く笑えという鉄の掟がない。
30分後。
暖簾をかき分け、メガネを掛けた店員が鉛筆とメモ用紙を持って出てきた。
その顔は震洋だった。「田中伏竜」とか名札をしているが震洋だった。
あとで秋水が聞いた話だが、彼は記憶を失っておかしくなっていて、知り合いを探していたらしい。
それがどうしたクズが。今の目的は和菓子を喰う事だからどうでもいい。
「ご注文お決まりになったら言って下さいなのだー」
なるべく何も聞かなかったように、秋水はお品書きに目を通す。まひろも同じく。

おしるこ ¥180
いちご大福 ¥100
どら焼き ¥80
渋茶(飲み放題) ¥100
バーニングアボガド ¥58,000

「ええとね。バー」
「目先の物珍しさでバイト代をフイにするようなマネはやめるんだ!」
「でもせっかく秋水先輩が来てくれたんだから、一番いい物を一緒に食べようよ!」
嬉しそうに光る目を見て、秋水はため息をついた。
いい子ではあるが盛大にズレている。先ほど電話を受けていた友人もこんな苦労をしているのだろう。
「だからといって浪費は良くない。安くてもいい物はある。
例えば渋茶飲み放題とかだ。100円で飲み放題なのは値打ちだ」
「じゃあおしることいちご大福! 秋水先輩は?」
「渋茶飲み放題と……どら焼き」
「かしこまりましたなのだー しばらくお待ちくださいよぅ」
店員は去っていった。笑うとえくぼができてチャーミングだ。

やがて頼んだモノを出されたとき、まひろはどこからかフォークを取り出した。
秋水は無意識に身構えた。食事の時の桜花は決まって
「ハイ、秋水クンの大好きなハンバーグよ。あーんして」と食べかけを差し出してくるのだ。
それをまひろもするのかと彼は警戒したが、しかしいちご大福は普通に食べられて終わった。
「おいしいね」
「そうだな」
少しかじったどら焼きは、なるほど、ちーちんが言っただけあって美味である。
だが、秋水には一つ納得できない。渋茶だ。
「ふぇ? 色ふぁ薄ぐじゃねば……ゴク。色が薄いから渋茶らしくないの?」
まひろは、いちご大福を飲み込みながら聞き返した。
「そうだ。渋茶はもっとこう、ドロドロした緑色でなくてはならない。加えて」
秋水は空の湯飲みを見つめながら、
やれ、ノドごしがもっと熱い方がいいとか、茶葉が底にとごるぐらいがいいとか力説した。
力説しながらも秋水は二杯目を汲みにいった。
理想を語っているだけで、この渋茶そのものは好きらしい。

戻ってきた秋水に、まひろは興味深そうに聞いてみた。
「渋茶っておいしいデスか?」
「好きなモノだからおいしいさ」
「え、おいしいから好きになったんじゃ?」
「いや、好きなモノだからおいしい」
「でも、おいしくなかったら好きにはならないよ。ウン」
「だから」
秋水はムっとした。こんな質問をされても答えようはない。
人の味覚はそれぞれであって、渋茶を苦手にする人間もいるだろう。
それを考えると、一概に「おいしい」と評価を下すのは気が引けて
「好きだからとおいしい」と思うようにしている。
それが一番道義に叶っているからいいじゃないか。と胸中の彼はムキになった。
彼の生真面目さは少しばかり幼いらしい。
桜花を守るという一点、一枠だけに収まって過ごした時間が長いせいか
物事を一つの枠に収めて見てしまう癖があり、やや余裕を欠けさせている。
桜花といえば、前述の食事の風景にいる彼女は、
『もういい年なんだからあーんとかしないでくれ』
その一枠に拘る秋水の目の前で、食べかけをちらつかせたり、逆に秋水の食べかけを食べて
「あらあらうっかり。ゴメンなさい。お詫びに私の食べかけをあげるわよー さ、あーんして」
とかやって、秋水を怒らせ、そして黙らせている。
その後の桜花はクスクス笑う。弟が見せる稚気が可愛くて仕方ないらしい。
彼女に言わせれば、生真面目さは欠点ではなく美点なのだろう。
余談が過ぎた。さて、秋水。
薄い渋茶は渋茶に変わりないからいいとして、まひろの意見は賛同しかねている。
明るい声が響いた。
「よし、じゃあアミダクジで決めよう!」
まひろは指を鳴らした。秋水はボタンを押した。震洋は鉛筆と紙をまひろに手渡し
そして15年後、アフガンで死んだ。

アミダクジの結果、『ゲジゲジを渋茶に入れると爆発する』という結論になり
まひろは、それをほんわかとした声で読み上げる。
秋水は、まぁ怒っても仕方ないかと妥協した。理由は特に無い。
声がほんわかしているからだ。友人が苦労を許すのは、そういう性質なんだろう。
秋水はそう納得した。

店を出るとき、寄り添うまひろからしっとりとした匂いがした。
どうも、頭から漂っているらしい。しばし迷ってから、聞いた。
「その、不躾な質問だけど。君は髪を洗うのに何を使っているんだ?」
「お米のとぎ汁!」
「そうか」
平安時代の主流だったらしいが、知っているのかいないのか。
それはともかく。
桜花と違い、栄養不足の子犬のようにぼさぼさしているその髪を、秋水はちょっと撫でたくなった。
終。



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