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【お帰りなさい】武装錬金総合萌えスレ49【男爵様】より

夏休みの宿題 根来編

(当時は9巻未発売だったので、まさか20歳とは。なんにせよ偏屈ぶりが楽しい楽しいw)



根来。

年の頃は20の半ばか。
髪は、大鷲が片翼をもたげたようにそそりたち
鋭い目が放つひかりのつめたさもまた大鷲のようだ。
首からたれるマフラーは、さながら天女の羽衣のごとく
すらりとした長身にまとわりついている。

錬金戦団において冷徹で名を知られる根来であるが
小学生の時代は確かにあった。
当然、夏休みに宿題を出されたりもしたが
合理を旨とする彼にとってそういう日常のペースを乱す代物は
整然と連動する歯車に割り込む薄汚い石くれよりも耐えがたく
速攻で片付けるコトを決意した。

60ページの漢字の書き取りは3日で済ませ、
他の問題集やら文章関係もまとめてそれ位で片付けた。
夏休みの友は一晩で済ませ、そしてラジオ体操に行った帰り道、ふと思った。

「なにゆえ私がかような雑務に付き合わねばならない。
残る宿題の内、まず絵日記は教師らが流し読みすれば終わるだろう。
朝顔の一生など私にはどうでもいいし
工作に至っては、二学期の教室の後ろにおいてホコリを被り
そして崩れるだけのガラクタ。ならば労力を裂く必要は見受けられない」

そう考えるとひどく煩わしい。
帰るやいなや、表紙にでかでかとうんこの絵が描かれた絵日記帳を広げた。
当時同級生だった円山が、犬飼に犬のでっかいうんこを喰わした記念に描いたのだ。
何ら関連性が見出せない行動であり、また犬飼が犬を嫌うきっかけでもあるが
根来に取っては全て余事。宿題を片付ける方こそ重要である。
彼はしばらくの思案の後、筆と墨を取り出し、絵を描く部分をすべて黒々と塗りつぶした。
「以上は、私が連日連夜見続けた黒毛和牛である。
彼らは食われる運命も知らず、闇の中でただいたずらに草を食(は)むばかりで
埒が開かず、ひたすらに愚かであり、哀愁すら感じる」
日記部分に流麗な文字で書き連ねると、筆が乾かぬうちに
朝顔の観察日記へ「枯れた」とだけ記した。
更にかねてより用意しておいた紙粘土を袋から取り出すと
冷笑を浮かべつつ四隅をわずかばかりこね回し、乾燥しだい「プラスチック爆弾」と命名した。
天気の観察表もあったが、全ての欄に「快晴」と書くコトで夏休みの宿題は7月中に決着した。
以降、根来は毎日黙々とラジオ体操にいき貰った図書券で「でらべっぴん」を買った。
表紙の女性は貧相な胸であり、根来は狂喜した。

二学期。宿題の提出後、先生が根来の元にきた。
宿題について不服があるらしく、彼はタバコ臭い息を吐きながら
「全部快晴はないだろ。紙粘土も少しはこねろ。でないと再提出だ。
絵日記帳の表紙にうんこの絵も描くな」
と詰め寄ってきたので、根来は答えた。
「太陽は雲の上で常に輝いている。だから快晴だ」
──またか。という顔を先生はした。
繰り返すが、当時の根来は小学生である。
しかし、年相応の可愛げはまったくなく、常に理屈っぽい。
冷然とした態度は、クラスでも浮き気味で、教師も持て余しているのだ。
根来の返答、続く。
「そして紙粘土については、少しはこねた。
その成果がプラスチック爆弾だ。
と同時にこのプラスチック爆弾は、もはや雑務を押し付けられた
私の心情を如実に表す作品であり、また、私が再提出を拒む権利たりうる。
付け加えるが、うんこの絵は円山が描いた。
しかし私も円山もまだ小学生であり、うんこが大好きだ。
犬飼に至っては食べるほどに好んでいる。
ほとほと将来が思いやられる異常性癖の男ではあるが、一応の敬意を表し、消さずにおいた。
ある意味で私の心情にも合致している」
「い、いや確かにお前は小学生だが、だったらもっと朗らかでいろよ。
合致なんて言葉、6年生でも言わ……待て、犬飼はうんこを食べたのか?
「食べた。正確に言えば円山に喰わされた。表紙の絵はその記念らしい」
先生はとりあえず、学校を休んでいる犬飼の家に電話をかけようと思った。
「要するに、絵日記などクソ、と言いたいのか根来よ」
「貴殿の品のない言葉を借りればそうなる。
ゆえに重ねて言おう。再提出は、断る」
眉をピクリともさせず切り返す小学生に、先生はヤニ臭い口でため息をついた。
「屁理屈よりも駄々よりも、まず紙粘土をこねろ。そして友達を作れ」
「友といえばつくづく思うが、夏休みの友は焼却炉に放り込むのが一番だ」
諸事こんな調子だったので、根来に友人はいない。一人たりともいない。
だが特に不自由はなく、毎日が楽しい。
ちなみにプラスチック爆弾は翌年、「干からびたういろう」として提出され、戦部に喰われた。



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