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【あなたがくれた】武装錬金総合萌えスレ51【一片の勇気!】より

怪奇! おにぎり人間ゴータ!

(タイトルの由来は「怪奇! 吸血人間スネーク」
要約するとヘビの博士の娘に手ぇだした主人公がヘビにされて終わる映画で別に吸血とか
しない肩透かしの映画。濡れ場もイマイチ。d+vineの2話ぐらい。これは4話が蝶・サイコー。
同時間だと「サバイバルファミリー」とかが良かった。ナイフを棒切れにくくりつけてシカに投
げつけて仕留めようとする姿に爆笑。この時のBGMがまた……ええとなんだっけ。そうそう。
割と希少なカップルのお話)



剛太は哀れな男である。
宣戦布告をしたその日に、斗貴子の唇を奪われたのだから。
いってしまえば、パールハーバーで核を打ち込まれるようなものだ。
哀れなるかな剛太! 何故に哀れなるか!?
その晩、彼は泣きじゃくり、涙が枯れた頃に、一つ決心した。
「敵を知り、己を知らば百戦するも危うからず」
つまり武藤カズキを知るべし。知れば対抗策もおのずと浮かぶ!
その情報源は誰にするか? 剛太はしばし考えた。
斗貴子なればノロケを聞かされ胸を抉られる。
友人一同はどれほどカズキを知っているか見当がつかない。
どうせ聞くなら、近しい場所でカズキを見ているであろう身内がいい。
というコトで、まひろを選んだのは必然だ。

10時ごろに寄宿舎へ行くと、ちょうど都合よく花に水をやっているまひろがいた。
さっそく一声かけて、カズキについて教えるよう頼んでみた。

「なるほど! つまりお兄ちゃんのいい所が知りたいのね!」
不意の来訪者の不意の質問だが、さしたる怪訝も浮かべず
まひろはじょうろ片手に力強くうんうんと頷いた。
その様たるや、この年であっても、父親が倒れたといえば確実に車へ詰め込める無警戒さだ。
「違う。欠点も何もかも、とにかく全部! …けど弱点はいらね。自分で見つけるから」
「敵」の妹がちょっと心配にもなったが、今は自分の心配だ。
カズキを知らねば、恋路は確実に閉ざされる。
知ったとしてそれが成就するかどうかは分からないが、やれるコトはしたいのだ。

夕方になる頃、ようやくカズキの調査が終わった。
途中から談話室に舞台を移したこの聴取、ほとんどがまひろの取り留めのない
思い出話に費やされ、参考になったかと言えば「時間を損した」と嘆く方が正しいだろう。
分かったのは、兄妹揃ってボケていて、ただしどちらもお人よしの馬鹿だというコトだ。
(じゃなきゃ、初対面の相手に半日以上も聞かれたコトを説明したりはしねェし
いちいち料理を出したり茶菓子を用意したりもしねェ)
夕闇迫る町の中、歩く剛太を過ぎるのは、めまぐるしく表情を変えて
剛太の深刻さも知らずにふんわりふんわり笑っているまひろの顔だ。
基本的に剛太を支配しているのは現実主義だ。
女というのはきまぐれで利己的な物であって、無償の愛なんぞは期待してない。
斗貴子は例外だ。なぜ例外かというと、苦境の剛太を励ましたからだ。
その時の感慨がわずかだが蘇り、剛太は慌てて首を振った。
(とりあえず、礼だけでも送っとくか。貸し借りはそれでチャラだ。チャラ)

翌日、同じような時間に寄宿舎に行くと、まひろはまた花に水をやっていた。
昨日は気づかなかったが、花といっても雑草のそれで、門の近くで勝手に咲いている
地味で特に見所のない白い花だ。
そんな花に毎日毎日水をやって、何が楽しいのか、剛太には分からない。
「あー! 昨日の人だ! 今日もまたお兄ちゃんについて聞きにきたの?」
剛太に気づいたまひろは妙にうれしそうな顔で、返事は期せずして荒くなった。
「ええいうるさい。俺はこれを届けに来ただけだ。話しはもういい!」
そして手にした袋を二つ、ぐいっとまひろに押し付けると、早足で去った。
「なんだったんだろ…? あ、お礼しにきたんだ。しかも私の好きなモノがいっぱい!」
ビニール袋に詰まっていたのは、片や菓子やらパックの青汁やら
片やロッテリやのハンバーガーやら。どちらもぎゅうぎゅうに詰まっている。
とまひろが喜んだのは、剛太なりの分析によるものだ。
横浜でカズキの買ってきた商品を逐一思い起こして選んだのだ。
兄妹なら嗜好も同じだろうと踏みはしたが──…
(…本当に何やってんだ俺。あいつの好みに合わしてもしょうがねェだろ。
ちくしょう。斗貴子先輩はあいつのどこが好きなんだ)
早足で肩を怒らせつつ、剛太はバツの悪い顔をした。

街中じゃなきゃ、モーターギアーで疾走したい気分だ。
そんな剛太を遠巻きに見ていたのは、彼曰くの似非キューピーである。
「それ」は、意味ありげに笑うと寄宿舎の方へふよふよと飛んでいった。

忘れがちであるが、剛太の任務は「ヴィクターIIIの監視」である。
カズキの選択がどうであれ、夏休みいっぱいで終わる任務だ。
だから剛太は銀成学園に転入していない。したとして新学期早々転出するのだ。
手続きがひどく煩雑に思えるし、ヴィクターIにかかりきりの戦団からは居場所について特に指示もない。
だから剛太が逗留しているのは、たまたま目に入ったごくごく普通のホテルの一室だ。
ちなみに滞在費用は照星から「三食ちょっと贅沢しても、向こう半年は滞在できる位」渡されている。
それを多少使いすぎたかと剛太が悩んだ翌日、つまりまひろに色々渡した翌々日。
部屋の入り口で、怒鳴り声が響いた。

「ば、馬鹿かオマエは!」 
「ひどい! 出し抜けにそんな! 私はただ一昨日のお礼をしに来ただけなのよごーちん!」
間延びした声を聞きながら、剛太は本当にあたふたした。
まずドアが叩かれた。そして開けたら敵の妹がいた。
剛太、化け物の類は見慣れているし、その化け物を殺戮する先輩だって慣れている。
が、まひろの顔を見た瞬間に激しく動揺した。
一人、男の部屋を訪ねるなど無防備すぎる。
そうして敵の妹をいちいち気遣っている自分が、剛太にゃひどくアホらしい。
ひどい脱力を抱えつつ聞けば、剛太の所在を御前サマが教えてくれたとか、
ちょうど折りよく宝くじで一万円当てたから、色々買って知ってる人にお裾わけしているとか
そういう答えが返ってきた。
「事情はよぅく分かった」
「分かって貰えた!」
「ならオレに感謝しろ!
ま、オレとしてもゴーチンに頑張って貰った方が実をいうと色々ありがたいからな」
場所は変わって、ここはロッテリやである。
喜色満面でハンバーガーを貪る御前に、剛太がひとしきり文句を言うと
「津村斗貴子へいかにして好かれるか」という議題が持ち上がった。
「で、ツムリンの好きなモノは?」
「お兄ちゃん!」
「言うなッ!」
ここで追加注文したハンバーガーが来て、まひろは手を伸ばした。
「じゃあ食べ物」
「…なんだっけ」
「おにぎり。おにぎりさえ食べていれば先輩は優しくて可愛いんだ。
そして食べ終わるとスパルタンだけど、時々ごはんぶつを口につけたまま
ホムンクルスをブチ撒けてるんだ… ちょっとマヌケだけどそれがイイ…」
情景がかなり鮮明に浮かぶのか、剛太は照れ照れと笑った。
「酒さえ飲まなきゃ優しい暴力亭主みたいだな」
もしゃもしゃとハンバーガーを食べながら御前がツッコみ、
「じゃあ私に妙案があるよ、ごーちん!」
まひろはケチャップを口周りにつけたまま顔をずずぃっと剛太に近づけた。
「な、なんだよ。と言うか、ごーちんとか変なあだ名をつけるな!」
戦々恐々の剛太に、まひろはある提案をし、御前はそれはいいと拍手した。

翌日、津村斗貴子の前に白い三角の物体が現れた。
すわ新手の敵か!と彼女は構えたが、響いた知己の声に素っ頓狂な顔をした。
「剛太、何の仮装だ?」
「ハ、ハイ。おにぎりのですね。えぇと…単刀直入に聞きますがどうですか先輩」
「悪趣味だ。感性は個人の勝手だが、やりすぎた男をキミも知っているだろう」
感想といえばそれきりで、剛太はまひろの提案を恨んだ。
「大丈夫! 今回は無理だったけど次こそは…アレ?
私なんだか妙な応援しているような… まぁいいや次こそファイトよごーちん!」
火渡よりもメラメラ燃えるまひろの姿に、剛太は頭を抱えた。
どうも、自分の思惑が狂わされている。
狂わされてはいるが、しかし一人で空回っているよりは
何らかの進展がありそうなのでしばらく様子をみようと思った。(了)



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